富山県建設業協会労務経営委員会(辻正博委員長)は17日、2016年度「建設業の雇用実態と経営状況に関する調査報告書」を公表した。
全体を通して、「人材の確保と育成」、「工事量の確保」が県内建設企業にとって大きな課題になっていることが明らかになったほか、企業経営と人材の確保・育成のためには、一時的ではなく、中長期的に安定した工事量が確保されることが必要、と分析。また、諸課題の解決へ、業界と行政が中長期的な展望を共有した上で、改善策を進めていくことが重要と総括している。
同報告書は、建設業界の雇用改善や若手技術者・技能者の入職・定着を促す方策を検討するための基礎資料とすることを目的に、建設業の雇用実態や経営状況を調査したもの。調査は、建設経営サービスに委託し実施。全会員企業の561社を対象として、16年7月27日から9月23日に調査票を郵送し、446社から回答を得た。回答率は79・5%。
項目ごとの調査結果を見ると、まず、従業員の雇用状況では、就業者の職種別割合が技術職50・1%、次いで現場の実作業を担う技能職が21・4%と、全体の71・5%が現場関係の業務に従事している。
技術職・技能職の年齢構成は、40歳未満の割合が4年連続で減少し、これまでで最も低い割合となり、全体的に高齢化が進んだ。特に60歳以上は過去の調査と比較して最も割合が高い。
今後、60歳代の退職が進む中で、新たな担い手を確保していくには、仕事のやりがいや魅力を業界一丸となり積極的にPRし、入職促進を図るとともに、雇用環境の改善を進めることも必要、としている。
給与・賞与等では、従業員の給与は、前年度と「変わらない」が最も多く、給与の上昇に一服感が感じられる。給与が「上昇」した理由では、「定期昇給を行っている」に次いで、「離職を防ぐため」が多く、離職防止策のひとつとして、給与面の待遇向上を図る企業が多いことが分かった。「減少」の理由では、「工事業が減少」、「利益が減少」を挙げる回答が多数を占めた。
夏季賞与を支給した企業は75・8%で、前年度から4ポイント低下。支給額は、「変わらない」が約半数で最も多かった。
労務単価に関しては、設計労務単価と実勢労務単価の乖離(かいり)が最も大きい職種は「交通誘導員B」で、4割超の企業が回答。金額の乖離率も28・0%と最も高く、早急な改善が必要、としている。
また、これまで数年に渡り公共工事設計労務単価が引き上げられてきたが、適正な利潤を確保するためにも、現状に即した単価の反映が求められる、とした。
若手の入職・定着では、課題として「他産業以上の賃金の支給」を挙げる企業が最も多く、「建設業界のイメージアップ」が続いた。改善策では、「適正な利益が確保できる工事価格設定」を挙げる企業が最多。2番目は「発注・施工時期の平準化」で、休日が確保しやすくなることが理由と考えられる。
経営状況については、直前決算の営業利益率で、回答企業の81・1%が営業黒字となった。業種別では、「舗装」と「建築」で黒字の割合が高く、「とび土工」と「土木」で赤字企業の割合が比較的高い。
全体の平均営業利益率は3・0%。利益率が前期比で「増加」したのは192社(50・1%)で、「減少」が179社(46・7%)と拮抗(きっこう)している。
経営環境・経営上の課題では、今後の経営環境の見通しとして、「悪化」と「やや悪化」を合わせ60%を超えた。特に完工高「1億円未満」、「1〜3億円」の企業でその割合が高い。
経営上の課題では、「受注の確保」の回答が63・9%と最も高く、第3位の「受注競争の激化」を含め、十分な工事業の確保を求める意見が多かった。課題に対する取組みでは、「技術力の強化」と「営業力の強化」の2つを挙げる企業が多い。さらに、人材の確保・育成に関する項目も上位を占めた。
災害発生時の対応等では、災害対応体制維持に関する課題に「人材不足」と「高齢化の進行」を挙げた企業が半数を超えた。建設機械に関する課題では、「機械の老朽化」の回答が最多。「オペレーターの確保」、「機械の更新(購入)費用の捻出」、「維持管理費の捻出」と続いた。
災害対応体制維持のために必要な施策については、「地域に必要な企業が存続できる工事量の確保」が9割近くを占め、まずは経営基盤の安定が必要とされていることが分かった。
担い手3法に関しては、改正後の発注者の対応について、すべての項目で「変化なし」が60%以上を占め、劇的な変化を感じていない企業が多い。国はすべての項目で「良化」が上回ったが、県・市町村では、一部の項目で「悪化」が上回っており、一層の改善が求められる、とした。