建設業労働災害防止協会の主唱による「2016年度建設業年度末労働災害防止強調月間」が1日、全国各地で始まった。様々な工事が輻輳し、完工時期を迎える工事も多いことから、労働災害の多発が危惧される年度末。この時期の建設現場の安全衛生管理を徹底するため、経営トップをはじめ現場の管理監督者らが一層の安全衛生水準の向上を目指し、店社と作業所との緊密な連携のもとで一体となり、労働災害防止活動を強化するもの。「年度末が1年を制す」。年別にみると「年初の時期」にあたる年度末は、統計的にその年の労働災害の傾向を占ううえで、大きなポイントを占めると言われる。しかし、県内建設業において本年はこれまでに、2件の死亡災害が発生。いずれも公共工事で、会員事業場が関与したもの。ここ数年間にわたって順調な滑り出しを続けてきた年度末。一転、本年は早くも正念場を迎えた建災防千葉県支部にとって、これ以上の増加は「絶対阻止」が命題となる。
◆危機感持ち「死亡災害阻止」
県内建設業における死亡災害は、2011年に過去最少の11件を記録した後に3年連続で増加。その後、2年連続の減少に転じ、昨年は12件と「過去最少に近い件数」まで減少した。
年が変わり「今年こそは過去最少の更新と初の一桁台への期待を膨らませていた」という尾頭支部長は、1月20日付で千葉労働局長から「労働災害防止についての緊急要請」を支部長名で受け取り、各分会に通知する事態となった。千葉県内全産業で、1月5日からわずか1週間に4件の死亡災害が発生したとのことで、「年明け早々身の引き締まる思いがした」と振り返る。その後も増加が続き、1月末には全産業で8件の死亡災害を記録した。これは、全国における『都道府県別のワースト1』で、全数の1割を超す数字となった。
その後も増加傾向の沈静化は見えず、2月末の速報値で既に11人の死亡が数えられている。昨年1年間の千葉県における全産業での死亡者数が35人だったことを考えると「驚くべき数字」(建災防)となる。これらの事態を踏まえ千葉労働局では、建災防を含めた労働災害防止団体等と連携し、死亡災害防止を目指す運動を展開するという。
前述の通り、県内建設業での死亡災害は既に2件発生し、いずれも会員事業場が関与。昨年1年間で会員が関与した死亡災害は12件のうちの1件だったことを考えると、「本年は今まで以上に気を引き締め、公共工事であるということも再確認する必要を痛感している」(建災防)という。
◆チェーンソー使用で必要知識と事前準備
「ここ数年の死亡災害の中で目立つもの」として建災防では、伐木などの作業でチェーンソーを使用していた際の事故と、スレートの踏み抜きの事故及び交通事故を挙げる。チェーンソーに絡んだ死亡事故は15年に4件発生。今年に入ってから建設業とそれ以外で1件ずつ、既に2件発生している。尾頭支部長は「被災者及び関係者の方々が、伐木等の作業及びチェーンソーの取り扱いについて、必要な知識と事前の準備が万全であったかが心配される」と、その徹底を呼びかける。
一方、スレート踏み抜きによる死亡事故は15年に1件、16年に2件発生。過去には全国で多発していた災害類型で、このところ収束したかに見えたが「県内でこのような実情であることから、関係者への注意喚起が必要である」と強調する。
他方、交通事故による死亡災害は、県内建設業では15年に1件、16年に3件発生。本年は、建設業以外で既に2件発生している。建設業の場合、事業所と現場との往復に車を使うことが通例。運転は作業者が兼ねる場合がほとんどであることから、尾頭支部長は「運転者の休養の確保等の配慮が特に必要」と指摘する。
◆転倒災害防止は国民的な課題に
建災防も主唱者となっている「ストップ転倒災害プロジェクト」の重点取り組み期間は2月と6月。本県の場合、年度末までは路面の凍結、積雪等も想定されるので、建災防千葉県支部では引き続き、実施要綱に示された各事業場における転倒災害防止対策を進める必要があると考えている。
転倒災害は全労働災害の2割を超え、死亡事故となる例もある。資料によると、職業生活を含めた一般生活の中でも、転倒・転落で亡くなる方は、交通事故で亡くなる方より多くなっているとのことで、転倒災害の防止は「国民的課題」とされる。
従来から、災害の多発傾向にある年度末を迎えて尾頭支部長は「関係者一同、改めて労働災害防止活動の重要性を確認したい」と強調した。
2016年の全国の労働災害の死傷者数は、2月速報値によると、全産業で11万2087人で、前年同期比0・9%増加しています。建設業の死傷者数は1万4398人で、前年同期比3・6%減少となっています。同じく、死亡者数は全産業で874人(前年同期比3・9%減少)、建設業で284人(同9・3%減少)となっています。
一方、千葉県内の2016年の労働災害の速報値は、死傷者数は1月末日現在で全産業が4675人(前年同期比1・5%減少)、そのうち建設業においては508人(同5・2%減少)となっております。また、死亡災害については、全産業で35人(前年同期比7・9%減少)となっており、そのうち建設業については12人(同20・0%減少)となっております。
◆これまでの対策を徹底すれば防げた
建設業の死亡災害の内訳は、墜落・転落5人、はさまれ・巻き込まれ1人、交通事故3人、感電1人、転倒1人、崩壊・倒壊1人です。2016年に発生した死亡災害は、在来型による死亡災害が多く、いずれも、これまで取ってきた労働災害防止対策を徹底すれば、防げたものと考えます。
建設業労働災害防止協会では、3月を「建設業年度末労働災害防止強調月間」と定め、労働災害防止対策を積極的に展開することとしています。
建設業の労働災害を減少させることは、全産業の労働災害の減少、特に死亡災害の減少に大きく寄与するものと考えられます。また、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催に向けて、競技施設の建設や首都圏を中心としたインフラ整備、再開発等の建設投資が増大することが見込まれます。しかし、現場の作業に習熟した労働者、現場管理者が不足する等により、再度、労働災害が増加することも懸念されます。
この時期、経営トップや現場の管理監督者の方々は、建設現場の安全衛生管理を徹底することを目的に、引き続き、多発する墜落・転落災害、交通労働災害の防止対策の徹底と未熟練労働者の増加、作業員の高齢化に対応した対策に取り組んでください。