潟lイ&パートナーズジャパン 渡邉竜一代表取締役インタビュー 21世紀版・出島表門橋≠実現 ついに現地に架設され、姿を現した出島表門橋。対岸(江戸町側)との距離が往時と全く違うため、復元ではなく新たに検討された最先端の橋だ。その設計を担当したのは、奇しくも出島に縁の深い欧州に本社のある構造デザイン・設計事務所「Ney & Partners」(ベルギー)の日本法人。斬新な設計・事業の進め方で21世紀版の表門橋≠実現している潟lイ&パートナーズジャパンの渡邉竜一代表取締役に話を聞いた。
―今回の事業のコンセプトは
主役はあくまで出島 「国指定史跡の出島側には橋台を設置できない条件下で、河川の施工を避け、橋脚を立てない方針を立て、江戸町側の護岸で片持ち≠フ橋を提案した。その条件下では、桁高を大きくするか、上から吊る方法しかない。主役はあくまで出島≠ネので、出島を引き立てることをコンセプトとし、構造物が目立つ吊り橋ではなく、桁高を抑えつつ橋をいかに景観に溶け込ませるかを考えた」
―具体的に、どのような工夫をしたのか
相反する要素を共存 「片持ちにすることで、橋を支える江戸町側の主桁が大きなボリュームになるのが一般的だが、テコの原理で江戸町側の橋台をカウンターウェイトに利用することで、桁高を抑えた。さらに主桁には、いくつもの穴を開けて反対側の景色を透かして見えるようにしたほか、鉄製のフィン(プレート)を水平方向に7枚設置。フィンは主桁の座屈を抑えるだけでなく、大きなスケールを細かく分割し、石造りや木目など細かいスケール感を持った出島の建物とのバランスを図る役割も果たしている」
「橋は、ステンレスの細かい粒子を含んだダークグレーの塗料で塗装。光沢感がありながら、光の当たり方で色が飛んだり、沈み込む効果がある。この色は、出島の建物の瓦の色を意識したもの。遠くから見ると風景に溶け込んでいるが、近づくと複数のフィンが印象的な現代的なデザイン。この相反する要素の共存を目指した」
―機能性や強度などを徹底的に検討した結果のデザインということか
「橋は、片持ちでありながら、江戸町側護岸内に築造する巨大なコンリート橋台をカウンターウェイト(釣り合い錘)にしてテコの原理でバランスを保つための形状。主桁の穴も、応力に応じて大きさや位置を変えている。力の流れが橋の造形に繋がり、結果的にこの形になった。意匠と構造を一体的に検討する弊社ならではの成果だと自負している」
―設計・製作と並行して、地域を巻き込んだ取り組みも進めている
「出島は長崎の方々にとって思い入れの強い場所。市役所にお願いして住民説明会を開いてもらった。そこでは『当時の橋を復元して欲しい』といった意見が出たが、物理的に不可能な状況。そこで、橋をどんな人がどんな考えで設計・製作しているのかを目に見える形で広く発信し、われわれデザインチームの提案内容を理解・応援してくれる人たちを増やすことにした」
「具体的には、任意団体『DEJIMA BASE』を設立。DEJIMA AGAIN≠フキャッチフレーズや両手を使った出島ポーズ≠考案し、現場の仮囲いにポーズをとった市民の方々の写真とメッセージを掲載した。また、SNSで工事の進捗情報を随時発信するとともに、市民が気軽に参加できるイベントを多数開催。これまでに、仮囲いの完成記念イベントやシンポジウム、出島博への出展、橋梁製作工場の見学バスツアー、出島の利活用WGなどを行い、多くの人に参加してもらっている。今回の架設イベントもこの一環だ。これらの取り組みは一般からの協賛を募って進めており、オリジナルデザインのTシャツや手ぬぐいも販売している。今後も、これらの活動と工事とを両輪で進め、出島を核とした活動を盛り上げたい」
わたなべ・りゅういち2001年 東北大学大学院修了。02年〜08年ステュディオ ハン デザイン勤務。09年〜12年Ney & Partners(ベルギー)勤務。12年潟lイ&パートナーズジャパンをローラン・ネイと共同設立。橋梁を中心とした土木構造物の設計、民間メーカーとのプロダクトデザインなど構造(技術)的アイデアを軸に、デザインと構造が融合した切り口の提案を行っている。