トップページお知らせ >地方ニュース

お知らせ

地方ニュース

建設新聞社(長崎)
2017/02/02

【長崎】対談 地域建設産業の将来

足立敏之参議院議員・谷村隆三長崎県建設業協会会長 紙上対談
  工事量の確保と利潤が生まれる環境を足立参議

 国土交通省の技監当時に担い手3法≠フ改正や設計労務単価の引き上げなどに尽力し、昨夏の参議院議員選挙で建設職域代表として当選した足立敏之氏。そして、長崎県建設産業団体連合会の会長として、建設産業全体の均衡ある発展のために取り組む谷村隆三長崎県建設業協会会長。両者に、利益が出ない∞人が集まらない≠ニいう厳しい状況に置かれている地域建設業の将来について語ってもらった。

― 地域建設業の必要性と将来像
谷村「担い手3法は、行政には地域建設業に対し大きな責任があるとしています。地域建設業が社会インフラの担い手であるとともに、災害時の役割、地域の雇用と経済に重要な役割を果たすことが期待されるからです。現状を見ると、すでに地域建設業は地域にとってあらゆる分野でなくてはならない存在です。このことは単に一産業や企業への支援ではなく、将来への政策実行者としての責任と考えられます」谷村会長
 「長崎県はその地政学的特殊性から多くの問題を抱えています。交通ネットワークの遅れ、離島半島で急峻な地形、それに国境離島、海域監視、過疎化、離島ならではのハンディキャップなどです。またインフラの老朽化やインバウンド増大に伴うクルーズ船への港湾整備などへの対応も大切です」
 「私たちはその重要な責任を自覚し、地域で継続し安心して建設業を営める環境づくり、若い人が将来を託せる建設業、地域から必要とされる建設業を目指したいと考えています」

足立「地域の建設産業の皆様には、暮らしを支える地域づくりや県民の安全安心の確保に、日夜ご尽力されておられることに心から感謝を申し上げます。とりわけ長崎県建設業協会の谷村会長には、そうした取り組みを力強いリーダーシップでけん引して来られたことに心から敬意を表します。
私も、引き続き皆様から暖かいご支援をいただき、全力で頑張ってまいりますのでよろしくお願いいたします」

   建設業は地域づくりの担い手、地域の守り手
「さて、建設産業は言うまでもなく、地域づくりの担い手であり、地域の守り手でもあります。現に、熊本の震災でも建設産業がしっかり頑張り、復旧・復興の道筋がつけられたと思っております。谷村会長からもお話がありました通り、長崎県は半島、離島により構成されており大変脆弱な環境下にあります。そのためやらなければならないインフラ整備もたくさんあります。こうした役割の大切さを考えると、建設産業が継続的に活躍できる環境をしっかり保持するとともに、若者が夢と希望を持って入って来ていただける産業として今後とも発展していくことが、わが国にとっても、この長崎にとっても大切なことだと考えています。そのため、私も皆様のご支援をいただきながら全力で頑張っていきたいと考えています」

― 地域建設業とそこで働く「担い手」の確保育成
   安定的な経営がなければ何もできない
谷村「建設業の担い手を語るとき、まず人材の問題以前にインフラの担い手である企業や業界に焦点が当てられるべきと考えています。なぜなら雇用するのも育成するのも、給与や休暇など就業環境を改善するのも、安定的な経営がなければ出来ないからです。いわば利益がでる質と仕事の量が大前提と考えます。同時に経営者の意識改革も大切ですが」
 「その上で、これまでも建設業のやりがいと技能研修、イメージ向上に努めてきましたが、これからも給与や労働時間、安全など職場環境の改善に努めたいと思います」

足立「建設産業では、高齢化が進むとともに新規入職者が減少しており、担い手の確保が重要な課題となっています。政府全体でも、働き方改革の議論が進んでいますが、建設分野においても就業環境の改善が不可欠です。
中でもまず最優先で取り組まなければならないのが給与と休暇の改善です。給与については、数度にわたる設計労務単価のアップで一時に比べかなり改善はされましたが、建設産業の果たしている大切な役割からすると、何とか他の産業を超える水準を確保する必要があると思います。そのためには、日頃の工事量の確保が不可欠で、一定量の公共事業予算の確保が必要です」
「また、週休二日制の推進など休暇の改善も大事な課題であり、建設産業全体で発注者・受注者挙げて取り組みを進める必要があります。そのため、私も谷村会長と同じく、発注者と経営者の意識改革が必要と考えています」
「こうして魅力ある職場環境を作り上げていくことで、若者に入って来ていただける環境をしっかり作り上げていかなければならないと考えています」

― 必要な公共事業の推進と毎年度の予算確保
谷村「私の知るかぎり、道路などは他国先進国の状況と比較し貧弱だと感じます。他のインフラもおそらくそうでしょう。老朽インフラへの対応も課題です。しかし残念ながら国の予算が伸びていかない。なぜそうなのか。防衛、教育予算、特に社会保障費が急激に膨れあがっているせいだとされていますが、それは他国も同様の面があります。それではGDP国民総生産が伸びないからでしょうか。税制やその配分が問題なのでしょうか」
 「財務省のいう借金(赤字国債・建設国債)はもともと赤字国債については認められていなかったが、社会保障費の増大に対応するために無理矢理法律を作って発行している。一方建設国債は世代を超えて国民が享受し、更に国民総生産に寄与するため認められていたもの。赤字国債はどんどん累積しているが、建設国債の累積幅は少ない。つまり借りる額と返済額がほぼバランスしている。にも関わらず、公共事業費を縮小しようという動きが根強いのは残念です」
 「公共事業予算が継続的に増額するような中長期的展望を示すことで、建設業は計画的な経営・雇用・設備投資を行うことが可能になります」
 「まだまだやるべき公共事業は多いのです。それは国の財産であり国力です。国民の理解、政治の理解を深める必要があります。私たちも仕事をやるだけでなく、そのことを広く伝える社会的責任があります」
 
足立「我が国の公共事業予算は<Rンクリートから人へ≠ニいう政権のもとで大きな削減があって20年前のピーク時の半分以下、47%まで減少しています。4年前に自公政権に戻していただいて、何とか減少傾向から、横ばい、微増に転じてきました。しかし、世界各国と比較すると、この20年間で公共事業予算を減らした先進国は日本だけで、アメリカは2倍、イギリスは3倍に伸ばしています。アメリカのトランプ大統領はさらにインフラ投資を増加させると主張しておられ、インフラ投資の拡大は世界の趨勢です」
「谷村会長ご指摘の通り、公共事業予算は税金を原資としているわけではなく、建設国債という借入金で実施しています。これは、公共事業予算で整備されたインフラを使う後世の世代にも負担をしていただくという考えで借入金を60年かけて償還する制度ですので、財政面の圧迫を心配する必要はありません。そのようなことを、広く県民の皆様にも正しく理解していただく必要があります」

   インフラが二流では経済も一流にならない
「ところで、この20年間公共投資をおろそかにしてきた間に、日本のインフラは二流、三流に転落してしまいました。選挙戦で地方をまわっていて感じたことですが、国道、それも一桁国道の舗装の状態がかなり悪く、世界的に見てもとても恥ずかしい状態です。高速道路も日本のような対面交通は、先進国にはほとんどありません。河川も、土砂が堆積して河床が上昇し、樹木も繁茂して危険な状態の川がたくさんあります。これでは経済の再生もおぼつかない状態だと思います」
「こうした課題を克服し、日本が力強く発展していくにはインフラ整備、加えてその維持管理の充実が不可欠であり、改めて公共事業予算の拡大が必要です。インフラが二流、三流で、経済だけが一流になるはずがないのです」

― 改正品確法で明記された「担い手の適正な利益の確保」
谷村「先に、建設業の担い手は企業や業界に焦点が当てられるべきと言いました。そのためには質と量が大切だとも。発注者の責務「担い手の適正な利益の確保」はまさにこのことです。改正品確法の運用指針にある正確な積算、発注の平準化、労務費と諸経費引き上げなどは質の問題です。以前の関係法による競争性の確保とは、企業の消耗戦促進であり、行き着くところは共倒れです。入札監視委員会などは時代遅れです。建設産業の育成を目指す『建設産業審議会』などに発展的に改組すべきです」
 「本県建設産業の営業利益率は全産業平均の半分程度と低い数字です。最低制限価格を目指さざるを得ない入札制度のあり方が大きな原因であり、低価格誘導になっています。これが改善できないなら最低制限価格を引き上げる必要があります。このことは大義です」

足立「建設産業は、公共事業予算の大幅な削減の影響を受けて、ダンピングや安値受注が横行し、仕事をしても利益のでない時代が続き、倒産に至る企業も続出しました。そのようなことではいけないということで、仕事をすれば必ず利潤が生まれるような、そういうあたりまえの環境に戻して行こうということで、脇雅史先生、佐藤信秋先生のご尽力で品確法の改正が行われました」
「私も国土交通省の技監の折に品確法の改正や運用指針の策定に携わりましたが、こうしたことを踏まえ、適正な予定価格の設定、歩切の根絶、最低制限価格の適切な運用、設計変更の適正な実施などの大事な取り組みが進められています。しかし、特に市町村レベルでは技術者も不足しており十分な対応ができていないところもあり、必ずしも皆様の期待通りになっていないところもあります。こうしたことを発注者が徹底することで、仕事をすれば必ず利潤が生まれる環境を作っていく、そのことに全力を傾けたいと思います」

― 従業者の高齢化・後継者不足への対応
谷村「人材としての担い手という視点で言うと、確かに高齢化が進んでいます。更に空白の15年と言っているのですが、就労者の年齢階層に空白があります。その間建設企業は若い人を雇い教育する力が失せていたのです。仕事は減る、利益が出ない、だから従業員を減らそうとした。そのツケが現在です。高齢者の定年引き延ばしも限界です。経営後継者の不足も深刻です。建設業の疲弊はまだ傷が深いのです」
 「遅きに失したと言わず様々な取り組みを続けています。イメージアップPR広告、未就業者への入職働きかけ、学校への企業訪問、就業環境の向上などです。また若い社員への技術教育や資格取得の支援による定着も重要です」
 「国からは人材育成の支援助成を頂き感謝しています。数年は続けていただければ有り難いと思います」

足立「いわれなき公共事業悪玉論が広がり、インフラ整備自体が悪いことのように喧伝された時代がありました。しかし、それは間違っています。インフラがしっかりしていなければ地域の発展も安全安心も確保できません。しかし、一度染み付いたイメージを拭い去るには、建設分野全体で地道な努力を続けていくことが必要です。マイナスのイメージを払拭するため、建設産業の本当の姿を知っていただく、若者やその家族の皆様にもぜひ現場を見ていただくような取り組みを進めたいと思います。そうすれば、若い人たちが夢と希望を持って入って来ていただくことのできる、未来のある産業であるということがわかっていただけると思います。
1964年の東京オリンピックを思い出してください。あのオリンピックは土木・建築が支えたオリンピックだったと言えると思います。新幹線、高速道路、モノレール、地下鉄、空港や港湾、大改造された近代的都市づくり、本格的なホテルや画期的な競技施設など、オリンピックに向けたインフラの整備により東京オリンピックが成功に導かれました。また、それだけではなく、その後引き続き整備されたそれらのインフラが、日本の経済成長を支え続けてきました。2020年の東京オリンピック・パラリンピックは以前のような新たな大規模なインフラ整備は必要ありませんが、それでもソフトも含めた新たなインフラの整備で、再び土木・建築の分野の活躍が求められると思います。それに備えてしっかり準備をしておいていただきたい、そう思っています」

   魅力あふれるプロジェクトを若い人に提供
「なお、大事なことは、これからの建設産業を担う若い人たちが、東京オリンピック・パラリンピックを含め、こんな仕事をしたい、こんな仕事で故郷に貢献したい、日本のために頑張りたい、そう思っていただけるような魅力あふれるプロジェクトを若い人たちに提供する、そのことが大事であり、我々先輩がやらなければならないことだと思っています」

― 地域建設産業育成への決意とエール
谷村「地方の建設業の仕事は、地域社会インフラの担い手であるとともに、災害時の役割、地域の雇用と経済に重要な役割を果たしています。単に生業であると言うだけでなくそのことに誇りを持ちたいと思います。その重要さは日頃は分からなくても、東日本大震災に見られるように緊急事態には切実に理解されることです。災害から国民を守り、交通など便利にし、国民の活動を豊かにする仕事であることを自覚し、ともに頑張りましょう」
 「国政は我々にとって生死を分けます。足立先生には大いに期待しています」

足立「大規模な災害が発生すると警察、消防、自衛隊の活躍が目立ちますが、建設産業の皆様も、崩れた土砂の除去、アクセス道路の確保、決壊した堤防の復旧など様々な緊急対応や、その後の復旧・復興の担い手として、大切な役割を果たしています。しかし、警察や消防、自衛隊の皆さんが災害対応の準備を本来の仕事として活動しているのに対して、建設産業は日頃建設工事を行う中で利益を上げ、それにより準備態勢を整え、いざという時に蓄積したポテンシャルを発揮して対応しています。このように災害現場で活躍する建設産業も、警察、消防、自衛隊と同様、決してなくなってはいけない、なくすわけにはいかない大事な産業と言えます」
「したがって、建設産業が未来永劫活躍できる環境を保持すること、すなわち一定量の工事量の確保と仕事をすれば必ず利潤が生まれる環境をつくり上げていくこと、これは国の責務だと思っています」
「『建設産業の再生無くして、日本の再生なし』そのために、私も建設産業の持続的発展をライフワークとして、全力で頑張ってまいりますので、引き続き皆様のご支援をお願い申し上げます」
ksrogo