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日本工業経済新聞社(群馬)
2017/01/05

【群馬】上原部長新春インタビュー

西毛広域幹線道路が本格化−。2017年の年頭にあたり、上原幸彦・県県土整備部長が掲げる3つの重点施策「7つの交通軸の整備強化」「減災・防災対策の促進」「八ッ場ダム関連事業の促進」の狙い、今後の事業展望などを聞いた。西毛広幹道は、全工区で事業認可取得したことから整備が本格化するほか、上信自動車道にも力を注ぐ。八ッ場ダムでは本体のコンクリート打設が始まり、生活再建事業がラストスパートを迎えるなど、各地で事業が動いていく。
−部長就任から12月までを振り返っての感想は
上原 部長就任時から「県土整備部職員一同、心を一つに力を合わせて、県民の命と暮らしを守る」を目標に掲げている。県土整備部の職員は800人おり、県庁全体で4000人いる職員のうち2割を占めるという大所帯。トップに立っている人間がどういう方向に向かい、何をするかということをただ心に持っているだけでは組織が動かない。その方向を具体化するためにこの目標を設定した。
就任当初は責任の重さを感じるのみだったが、仕事に少しずつ慣れていくとやりがいを感じられるようになっていった。この仕事は、一つひとつの仕事が形になる。そういう意味では、部長として9カ月仕事をしていろいろな足跡を残せているように思う。本年度は7月に東毛広域幹線道路が全線4車線化したり、国の事業にはなるが八ッ場ダムのコンクリート打設が始まるなど、半世紀を超える事業が、一つは完成し、一つは工事が本格化したという非常に象徴的な年。日本全体で見れば、本年度もかなり大きな災害があったが、群馬県としても災害派遣として職員を送っている。東北にも送り続けている。災害支援というのも危機管理の延長線上として重要な仕事としてあり続けている。

−7つの交通軸整備が着実に進んでいるが、それを含めた道路整備の重要性とは
上原 本年度の公共事業予算679億円のうち、約半分となる300億円近くが7つの交通軸整備に関わる事業に充てられている。線でできている構造物は、途切れてしまっていては意味がない。人・モノ・情報の交流と大澤知事がよく口にするが、道路がつながってこそ効果を発揮する。定住人口だけでなく交流人口というものを重視するという面では、道路の重要性は大きい。
これまでは東毛広域幹線道路に力を入れていたが、これからは上信自動車道と西毛広域幹線道路が中心になってくる。特に西毛広域幹線道路は、5月に全線事業化し事業が進められていく。主軸となる道路だけでなく、軸間の強化という意味ではインターチェンジへのアクセスや工業団地につなぐ路線の強化にも力を入れている。
「はばたけ群馬・県土整備プラン」は、10年先までの整備計画をはっきりと見せている珍しい計画。進出する企業としても道路の計画を見ながら、進出のプランをまとめることができる。道路をつくるだけでなく、対外的に計画を知ってもらうことで、企業誘致を促進できる。工事だけでなく計画の見せ方を考えるのも大切だ。

−防災減災対策の重要性については
上原 2016年度は、土砂災害警戒情報が61回出されている。これは、前の年の1・5倍という数字。群馬県は、土砂災害警戒区域、特別警戒区域の調査、指定が全国で4番目と非常に早く、すでに2巡目に入っている。それとは別に対策を行わなければ県民の命と暮らしは守れない。土砂災害に関しては、箇所が多いことから優先順位を付けて重点的に進めている。
ハードの整備だけでなく、災害が起きた時に自発的に避難できるような、いわゆる住人目線、県民目線のソフト対策にも力を入れている。
対策の一つは、水防法が15年に一部改正し、想定し得る最大規模の降雨に基づいてハザードマップをつくらなければいけなくなった。群馬県は、水位周知河川の19河川の変更を行っているところで、出水期となる5月までに完成させる。
道路については、ウェブカメラを80基近く付けているが、河川には直轄を除けば一個も設置していない。18年度までに動画がみられるように整備を計画している。動画は、危機感を持ってもらうのに一番わかりやすい、臨場感のある情報になる。
本年度から来年度にかけて、県が管理する全ての河川について災害リスクをチェックし、水位周知河川が増える可能性や重要な水防箇所を増やすための基礎資料として点検を行っている。
ハードに関しては、どうしても経済面での縛りが出てきてしまう。ソフトだけ、ハードだけでは絶対に被害をなくすことはできない。逃げるという行動に持っていくのがソフトを整備する立場にいるわれわれの仕事となる。

−6月には八ッ場ダム本体のコンクリート打設が始まった
上原 11〜13年と3年間八ッ場ダム水源地域対策事務所に所属していた。所属初年度となる11年12月には、事業再開が唐突に発表されるなどのごたごたがあったが、群馬県としては大澤知事が生活再建をしっかりとやるということでぶれがなく行動しやすかった。
本体のコンクリート打設工事が始まり、19年度の完成が予定されている。ダム完成までの道筋はできているが、それまでに地元の方の生活再建をしっかりしなければいけない。そうすると、残りは3年と少ししか残っていない。地元の皆さんが本当に必要とするものを残りの期間で整備していかなければいけない。
八ッ場ダムの生活再建では、八ッ場ふるさと館やクラインガルテンやんばの完成など一つひとつ形になってきている。1980年に生活再建案を群馬県が出したことで、反対派の人も少しずつ賛成してくれるようになった。その責任は大きく、実現に向けて動かなければならない。

−3月をもって定年を迎えられるが、これまでを振り返り印象的な出来事は
上原 特に印象に残っているのは、全国都市緑化ぐんまフェアと八ッ場ダムの二つ。
全国都市緑化ぐんまフェアでは、新聞・テレビ・ラジオといったメディアとの関係やノベルティ、パンフレットの作成など、これまでと全く違う広報の仕事を担当した。最初は若干とまどいもあったが情報を発信することの大切さと楽しさをこの仕事で体感し、広報の重要さを感じることができる一大転機となった。イベントが始まってからは、専用のホームページに会期中の72日間、毎日欠かさず会場のようすを掲載していた。会場にいた人がホームページの内容を話しているの聞き、自分の発信した内容への反応が生で聞けたこともあり、大変だったが忘れがたい記憶になった。
八ッ場ダムでの仕事は、60年以上続いている仕事を受け継ぐこととなる。自分一人の力だけでは何もできなかったが、職員と力と心を合わせ、地元の人たちの笑顔が見られるように仕事ができたというのは誇りだ。そして、本年度は最後の基本計画変更があり、事業の行き先を見ることができたことは非常に感慨深い。

−後任の部職員に対するメッセージを
上原 職員に対しては、目標を持ってもらってそこに向かってみんなで気持ちと力を一つにして実現できるようにやってほしい。仕事は一人でやっているわけではない。壁に当たったら周りと相談しながら破ってほしい。自分の代だけで終わる仕事は少なく、連綿と続いていく。県土整備部の使命を守れるようにしてほしい。

−建設業界に対する要望は
上原 改正品格法の2大テーマである担い手の維持確保と生産性の向上。高齢化により技術がうまく継承できないというのが問題で、対策をしなくてはいけない。建設業界は、われわれのパートナー。つくる、維持・管理するという以外にも災害時の危機管理という面では建設業との良好な関係がなければ不可能。県民の命と暮らしを守るという意味でも、しっかりと仕事をしてもらえるような努力をしなければならない。
担い手確保の問題点として、入職しても辞めてしまうというのが挙げられる。世の中のため、社会のためになる仕事だと理解してもらえるような魅力を発信することが必要。
県も産学官連携事業で高校生や高専、大学を中心に情報を発信しているが、モノをつくる楽しさを体感しているさらに小さな子どもたちへアピールし、業界とわれわれで連携して建設業の魅力を伝え、担い手を確保しなくてはいけない。
日本全体で人口が減少しどの業界でも人手不足が言われる中、建設業だけ入職者が増えるとは思えない。その中で減ってしまった部分を埋めるためにも省力化、生産性向上への取組は欠かせなくなるだろう。