鹿児島建設新聞
2016/05/28
【鹿児島】ジレンマ〜建設業の憂鬱〜 生かされない震災の教訓
24日現在、熊本県の住宅被害は9万8822棟(全壊8047棟、半壊1万8100棟、一部破損7万2675棟)。いまもなお確認作業が行われており、被害はさらに増える恐れがある。地震発生から1カ月以上が経過。さまざまな点で対策の不備や改善点が垣間見えてきた。
急がれる生活支援の一つに「安心できる住居の確保」が求められる。生活再建への最優先課題ともいえるが、残念ながら熊本市や宇土市など7市町村が仮設住宅の「建設候補地」をあらかじめ決めていなかった。
用地や資材の確保が難航して仮設住宅の完成が遅れた東日本大震災を踏まえ、国が全国の自治体に候補地の事前準備を促したにもかかわらず、地域防災計画にすら明記されていないなど、その教訓が生かされなかったことになる。
余震の規模などの影響で一様に比較は難しいが、熊本では本震の13日後に仮設住宅に着手。阪神大震災は3日後、東日本大震災でさえ8日後であったことを考えると、行政サイドの震災に備える意識の低さや甘い考えで、事前準備を怠ったツケが被災者救援を妨げてしまった格好だ。
また、熊本地震では耐震化の重要性も改めて浮き彫りになった。「最大震度7」が立て続けに発生した今回の熊本地震は、活断層を震源とする直下型地震では過去に例がない連鎖を起こし、被害が拡大。新しい耐震基準に適合した建物でも全半壊した事例が発生した。
震度7レベルの地震は日本列島のどこで、いつ起きてもおかしくない。今回のように多発発生もあり得ることを考えると、「生命と財産を守る」ために建築物のさらなる耐震化が求められる。さらに今回の熊本地震を踏まえ、南海トラフ巨大地震などを見据えた対策も急務である。
一連の地震に伴う避難者数は、今なお約1万人が避難生活を余儀なくされている。長期化する避難生活に健康面や精神面への影響も懸念されるほか、梅雨による2次災害や熱中症など避難生活のリスクも高まる一方である。
甚大で悲惨な災害が発生するたびに課題や問題が生じ、さまざまな対策や改善策が打ち出される。しかし、果たしてどれだけのことが改善され、実行されてきているのだろうか。
法改正や周知には時間がかかるほか、自治体によっては財政事情など課題もあるが、予期せぬ事態に「ああしていればよかった」と後悔する前に、スピーディーな実行力や行動力が求められている。