鹿児島建設新聞
2016/05/27
【鹿児島】ジレンマ〜建設業の憂鬱〜 生かされない震災の教訓
熊本・大分地方に甚大な被害をもたらした「2016年熊本地震」。震度1以上の地震回数が1500回超となり、今なお不安な日々を送る被災者は多い。阪神淡路大震災以降、たび重なる震災を経て、さまざまな対策が練られてきたが、その教訓が生かされていない現実も見え隠れする。
「納得いかない」「どうしてなんだ」と罵声が飛び交い、納得し難い調査結果に顔をゆがめる被災者たち。
熊本県の申請のあった33市町村全てでようやく罹災証明書の交付ができるようになったが、家屋の被害状況と自治体が行った認定結果が合致せず、不満を漏らす様子が見受けられる。
罹災証明書は、市町村長が住宅被害の「程度」を判断して証明するもの。住居の補修や仮設住宅への入居、生活再建支援金の給付などに必要で、家屋被害を@全壊(50%以上損壊)A大規模半壊(40%以上50%未満損壊)B半壊(20%以上40%未満損壊)C一部損壊の4区分で認定し、証明書に記載される。
所有者にしてみれば、この被害認定次第でその後の被災者生活再建支援金や義援金などの支給額、仮設住宅に入居できるかどうかが左右されることから、納得いかない認定に不満の声が上がるのも当然のことである。
この罹災証明発行時の混乱を招いた要因には、住宅被害の「程度」を判断する術が損壊割合≠ノよる点も大きいが、震災後すぐに行われた建築物の「応急危険度判定」も起因した一つと考えられる。
そもそも「応急危険度判定」は、余震で倒壊などの恐れがあるのかを外観から調べ、倒壊や落下物の危険を内外に示す制度。その建物に立ち入ると危険かどうか、あくまでも危険の度合いを示すものであるが、「危険」と記された赤紙が「全壊」と混同され、結果として所有者により一層の不安を与えた。
「制度の周知不足」と言われればそれまでだが、「混乱を招いている」との声は、制度の実質的運用開始となった阪神淡路大震災時にすでに指摘。東日本大震災でも問題視されていた。
家屋の修理費が支給されない半壊や一部損壊と認定された所有者にとっては死活問題。罹災証明書をめぐり、判定を不服として2次調査を申し立てた件数が25日現在で4000件を上回ったことをみても察しがつく。
本県からも官民問わず多くの建築士が現地に駆け付け、判定業務に携わった。だからこそ、今回の教訓を生かす改善策が早急に求められている。