「陸の孤島」と呼ばれた紀南地方も高速道路の開通により松阪や津、四日市などの県内からだけでなく、大阪や名古屋からのアクセスも飛躍的に向上した。しかしながら、2011年の紀伊半島大水害でも経験したように、いったん大規模災害が発生すれば孤立する集落も多く、社会基盤整備が急がれる地域であることには変わりがない。そこで、熊野市出身で今年4月に就任した三重県熊野建設事務所の廣田哲也所長に熊野地域に必要な社会基盤整備や16年度の事業などを聞いた。
――まずは所長就任の抱負を伺いたい。
「県職員として最初の勤務地はこの熊野建設事務所だった。35年ぶりにスタート地点に戻ってきたわけだが、これまで培った経験を生かし、微力ながら災害に強い郷土づくりのために尽力したい」
――熊野の当時と今の印象は。
「紀勢自動車道や熊野尾鷲道路の開通などでずいぶんと近くなった。見る風景は昔と変わりなくのどかで安心感がある」
――管内の状況をどう捉えているか。
「当地域では集落が点在していることと、山と海に囲まれた地形的な問題で整備効果はなかなか上がっていない。また代替道路がなく、ひとたび異常気象が発生すると、道路の寸断や土砂災害などにより住民の生活が脅かされる環境にある」
――では、熊野地域に必要なことは。
「県内全体と比較して社会基盤整備が遅れており、道路・河川・海岸・砂防の各事業の整備水準を上げる必要がある。紀伊半島大水害以降、当地域では洪水や土砂災害、地震津波への関心も強く、被害軽減のための施設整備が求められている」
――被害軽減のために行う16年度の事業を聞きたい。道路と河川事業から。
「異常気象時に度々浸水する県道紀宝川瀬線で避難時間の確保や孤立解消のため、15年度に引き続き道路の嵩上げを進める。志原川、尾呂志川、井田川では洪水による浸水被害を防ぐため護岸整備を進める。また、紀伊半島大水害以降、管理河川において河川の流れを阻害する土砂が堆積傾向にあり、地元要望も強いことから関係市町と協議しながら計画的に土砂の撤去を実施する」
――海岸事業では。
「無堤防区間が存在する七里御浜海岸では、近い将来発生が危惧されている南海地震の影響が心配されていることから、有馬地区海岸、阿田和地区海岸で堤防工を進める。海岸浸食が著しい井田地区海岸では、人工リーフの整備や養浜工の整備を関係機関と調整しながら進める」
――砂防事業を。
「渓流土砂が流出傾向にあり、施設整備の必要性が高い状況の評議川や大和田川、上大長田谷などで砂防堰(えん)堤工事を継続し、奥西谷や雨東谷などでは事業を促進させ、下流域に対する安全性の向上を図っていく。急傾斜事業では馬留地区や阿田和地区、上地3、4地区で法枠などの整備を進める」
――ここで16年度の予算規模を聞きたい。
「全体で25億9441万円となった。内訳は道路関係が10億8000万円、砂防関係が5億8000万円、海岸関係が5億4000万円、河川関係が2億3800万円で、残りが災害復旧関係などとなっている」
――ずばり16年度の目玉工事は。
「国道169号土場バイパスの仮称新土場トンネル工事だ。上半期に公告し、16〜18年度までの3カ年で工事を進める。土場バイパスは09年度から着手しており、現在は仮称新西谷橋の上部工製作と現地で架設設備工事を進めている。橋梁は本年度内に完成させ、接続するトンネル工は年度末の着手を予定している」
――予算執行に当たっての考えを。
「補助事業については上半期の契約率80%を目指し、早期の工事発注に努める。また、事業を円滑に進めていくためには関係市町との連携が必要不可欠であり、情報交換を密にしながらタッグを組んでやっていきたい。そして、何よりも住民が安全で安心して暮らしていけるような施設整備を目指し各事業の予算を執行していきたい」
「特に道路事業では早期に事業効果が表れる局所的な改良などの柔軟整備を進める。鵜殿熊野線などで通学路の歩道整備や管理道路の防災施設整備を行い、安全・安心な通行を確保していく。また、熊野古道や丸山千枚田などの観光拠点にアクセスする道路整備を進め地域の活性化に寄与していきたい」
――最後に、建設業界について。
「紀伊半島大水害で大きな被害を受けた井戸川流域では、欠壊した護岸の応急対策や河川の堆積土砂撤去などの緊急対応を行い、2次災害の発生を懸命に防いでくれた建設業界には助けてもらったという感謝の気持ちをずっと持っている。地域の安全・安心を守る良きパートナーとして発展してもらいたい。また、私としても地域にとって必要な事業を訴えながら、事業量の確保に努めたい」
提供:
建通新聞社