東紀州地域のうち、尾鷲市までが完全に高速道路で結ばれ、週末や大型連休には交通量も増え、熊野古道を散策する観光客も多く見られるようになった。地域に活気がよみがえりつつある反面、事業量の激減により尾鷲建設事務所管内の建設業の活力は低下している。地域の雇用を支える建設業の衰退は近い将来、地域経済に与える影響が大きいものとなるかもしれない。災害時の緊急対応や地域のインフラ整備を進める上で、建設業を大切なパートナーとして位置付けている三重県尾鷲建設事務所の柘植武志所長に建設業に対する考え方や2016年度の事業展望などを聞いた。
――就任1年目の昨年のインタビューで、管内の建設業の活気が少ないと話していたが、1年経ってどうか。
「少しは元気になったと感じる。昨年は年間を通じて7〜8回の情報交換を行い、互いの気持ちをぶつけ合った。予算的に新規事業の立ち上げが難しい状況ではあるが、地域住民の安全・安心や利便性につながる新規事業の今後の見通しを示すことで、業界としても少しは希望を持つことができたのではないか」
――地元建設業界を衰退させてはならないという気持ちが強いようだが。
「地元の建設業は災害発生時には復旧活動を担い、地域の安全・安心を確保する上で欠かすことのできない存在だ。また、公共事業を推進し県民の皆さまに安全で快適な環境を提供していくためにも建設業界の協力は不可欠だ。公共事業の減少はこの地域の建設業界に大きなダメージを与えているが、基幹産業として地域の雇用も懸命に支えている。今後もインフラ整備を進める良きパートナーとして協力をお願いしたい」
――では、16年度の予算を聞きたい。
「当初予算の規模は21億3159万円となった。事業量が減少し、5年前の11年度当初予算34億6500万円と比較すれば約60%となっている」
――今の予算規模をどのように捉えているか。
「尾鷲地域は雨も多く自然災害のリスクが高い地域であり、東南海南海地震による震災や津波のリスクを抱えている地域でもある。リスクに備えた防災事業や橋梁の耐震化などは早急に進める必要がある。また、公共土木施設の老朽化も急速に進んでおり、適正に維持、管理、更新していかなければならない。こうした状況下では、11年度並みの予算規模が必要であると考えている」
――16年度事業について伺いたい。まず道路関係から。
「道路改築事業として国道311号の賀田拡幅、県道矢口浦上里線と県道長島港古里線のバイパス整備を進める。国道311号では地質調査と樋門詳細設計を行い、用地買収も続ける。矢口浦上里線では改良工事のほか、橋梁下部工と取り付け護岸工を行う。長島港古里線では用地買収と改良工事を実施する。街路事業として進める尾鷲港新田線の未整備区間整備では共同溝予備設計と用地測量を行う」
――橋梁関係では。
「県道須賀利港相賀停車場線の相賀橋と国道311号の古川橋架け替えについては詳細設計に入り、地元説明会も行いたい。相賀橋、古川橋ともに早期の事業着手を目指しており、17〜18年度で用地買収を進め、18〜19年度には工事に着手したい。港湾改修事業として実施している江ノ浦大橋耐震補強工事では昨年度の橋脚補強工4基に続き、本年度は2基の補強工を進める」
――河川・海岸関係を。
「河川事業では赤羽川などで洪水被害防止・軽減のため、河川堆積土砂の撤去を実施する。銚子川と船津川では河口閉塞(へいそく)解消の効果的な対策を講じるべく、昨年度の現況調査に続き、本年度は表層砂調査と柱状採泥調査を行う。海岸高潮対策事業では高潮による背後地の浸水被害を低減させるため、長島港海岸で護岸工を進める」
――砂防関係は。
「砂防事業として楠木谷川など3カ所で砂防堰(えん)堤工などを進め、急傾斜地崩壊対策事業として長島地区など5地区で法面工や擁壁工を進める。当事務所管内では土砂災害防止法に基づく警戒区域等の指定が既に完了しており、地域住民からのハード対策への要請に応えるためにも砂防事業、急傾斜地崩壊対策事業を推進していきたい」
――昨年度は所長自ら危険箇所の現地視察を行ったが、本年度も視察するのか。
「脆弱(ぜいじゃく)場所を調査し、地元の方の話しを聞き、その周辺の状況を把握しておくことは重要なことだと考えている。災害発生前に手を打つこともできるし、仮に災害が発生した場合でも効率的な対応ができる。防災・減災の観点から、地域を熟知している建設業界とともに第1四半期中に行いたい」
――最後に予算執行に当たっての考えを。
「三重県では当初予算の前倒し執行の方針を立てており、当事務所でも補助事業、交付金事業の上半期契約率80%の予算執行を図るべく、早期発注に努める。また、事業推進に当たっては関係市町と建設業界、当事務所との連携強化は欠かせないと考えている」
提供:
建通新聞社