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建設新聞社(長崎)
2016/04/13

【長崎】入札先進県ながさきの継承 連載A

―入札契約制度から担い手3法の実効性確保へ―
  第2回 (一社)長崎県港湾漁港建設業協会専務理事・田中修一氏に聞く

 業界を取り巻く状況を踏まえて柔軟に入札契約制度を改正してきた県の歴史を振り返りながら、担い手3法の実効性担保のための施策の方向性をさぐる連載。2回目は、県土木部の建設企画課長や次長を歴任した田中修一(一社)長崎県港湾漁港建設業協会専務理事に話を聞いた。田中修一氏

人命・品質の視点で予定価格引上げ

 田中氏が建設企画課長だった2007年当時は、小泉内閣の『聖域なき構造改革』を引き継ぎ、加速させる姿勢を示していた第1次安倍内閣が政権を担当。道路公団や郵政の民営化など、コスト削減や効率性を重視した痛みを伴う改革≠ノより、公共事業でも競争が激化。ダンピングが頻発する中、「税金の無駄遣いが解消される」と歓迎する風潮さえあった。
 ただ、建設業は過当競争により倒産件数が増加。長崎でも建設業の倒産件数が全産業中最多となった。さらに、事故の発生件数が増加。08年の建設業の労働災害による死亡者数は前年の3倍になるとともに、長崎労働局が建設工事現場を対象に実施した監督指導では、転落防止の不備など何らかの違反があった現場が過半数を超えた。落札率の低下によるコスト削減が、安全経費にまでしわ寄せされる危機的な状況にある中、「人の命と工事の品質確保は何としても守らなければならない」(田中氏)との思いから、建設工事での最低制限価格の引き上げの試行を決めたという(09年2月〜試行開始)。
 公共事業や建設業に逆風が吹いていたと言っても過言ではない当時にも関わらず、WTO対象の超大規模工事を除いたすべての競争入札で試行。しかも、中央公共工事契約制度運用連絡協議会(中央公契連)モデルとして示されていた割合(予定価格の2/3〜85%)よりも大幅に高い90%に引き上げたこの措置は、全国に大きな衝撃を与えた。
 引き上げの実現に当たっては、県民・議会の理解を得る為、県内建設業の倒産や事故の増加など客観的な数値を提示。逆風の中でも県内建設業の育成≠フ視点は堅持し続けた。それは、建設産業が、県の基幹産業の一つであり、雇用の受け皿だけでなく、災害発生時の応急復旧への迅速な対応など、地域の安全・安心の確保にも貢献していることを、長崎大水害や雲仙普賢岳の噴火災害、度重なる台風災害などを通じて、身をもって体験してきたことも少なからず影響を与えている。
 この英断は、他県にも影響を与えた。地場建設業の疲弊を痛感していた自治体では、程なく追随の動きが出始めたという。そして何と2か月後には、公契連モデルも90%まで引き上げられた。
 県内建設業の育成≠フ視点は、長崎の特徴でもある離島を対象にした新たな入札契約方式として、その前年(08年)に既に実を結んでいた。土木部所管の建設工事を対象にした「地域力保全型指名競争入札」の試行だ。
 この制度は、五島、上五島、壱岐、対馬の各機関が発注する設計金額3500万円〜5000万円の土木一式工事(特殊なものや海上工事は除く)について、管内に主たる営業所があるAランク業者(上五島はBランクも対象)に指名競争入札で発注。従来、管外の業者も指名していた規模の工事を、管内業者のみ指名することで受注機会増による経営の安定向上を図り、離島地域の安全安心・雇用の確保に寄与することを目指した。この制度は、16年度から上五島地区で「地域力保全型一般競争入札」を試行するなど、一部見直しを加えながら現在も続いている。

  入札制度より 安定・継続的に利益出す仕組を

 これらの取り組みを進めてきた田中氏だが、担い手3法で求める『適正な利潤の確保』には、入札制度よりも積算体系の抜本的な見直しが有効だとの持論を持つ。特に、市場単価の活用について「指し値の実態がある中で設定された価格が適正だとは思えない」と危惧。さらに、予定価格の範囲内でしか落札できない『予定価格の上限拘束性』も、落札率が下がり続け、結果的に利益を圧迫すると指摘。
 「企業は奉仕団体ではない。安定的かつ継続的に利益を出し、適切な経営ができてこそ、技術・ノウハウを社会に還元できる。結果として、品質が高い公共施設が完成し県民の皆様がその恩恵に浴することができる」―。田中氏は、このような仕組みの構築に向け、国を挙げた検討の必要性を訴えている。
ksrogo