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北陸工業新聞社
2016/03/18

【富山】「施主が愛着わく仕掛けを」/アーカイブ発刊記念シンポ/県建築士会/「職人技術のゆくえ」で公開討議

 富山県建築士会(中野健司会長)は16日、富山市の富山県総合福祉会館で、「建築職人アーカイブ」発刊記念シンポジウムを開催した。
 建築職人アーカイブは、建築士会の創立60周年を機に企画。富山の住まいと町並みを造った建築職人にスポットを当て、職人が果たした役割を調べ、その技術の変遷を記録し後世へ伝えるため、3年間に渡り会月報に連載したものを、書籍として発刊したもの。
 この日は会員ら約150人が参加。冒頭、中野会長が「アーカイブは建築に関わる職人、生産の状況が大きく変化している危ぐから私達自身の足元を見直し、職人技術の継承や地域の建築産業のあり方を話し合う機会として出版した。明日の富山の建築を考える場としたい」とあいさつ。
 続いて、「つなぐ職人技」を題目に近江美郎氏(おおみ設計代表)が基調講演し、法隆寺など現存する古い木造建造物の職人技術の凄さを説明。散居村のアズマダチの伝統家屋について、「日本一美しい景観で財産だが、少なくなってきた」と警鐘を鳴らし、「八尾町の町並みは、地元の方の勉強の成果が出ている。一つは点でもつながれば、線から面となり景観になる」と強調した。
 さらに、▽古民家再生▽「枠の内」の移設利用▽職人とのコラボレーション|に関し、実作を通じ作品のポイントを分かりやすく説いた。
 パネルディスカッション「職人技術のゆくえ」は、近江氏がコーディネーターを務め、各職種の代表者として▽設計=濱田修氏(濱田修建築研究所代表)、▽施工=藤井圭一氏(藤井工業代表)▽大工=若松聡氏(松匠代表)▽左官=寺西一貴氏(彩築舎代表)▽建具=長谷川敬雅氏(中岡建具店代表)▽建築主=小林英俊氏(県建築士会専務理事)−がパネラーで参加した。
 各業界の最近の動向について、濱田氏は「建築主の価値観が変化し、職人の伝統技術が求められなくなった。伝統技術を保つには職人も変わる必要がある。培った技術を利用し、現代に合う物を造ったらどうなるかを考えている」、藤井氏は「職人不足をひしひしと感じるが、大変な物件でも職人気質でやっている」、長谷川氏は「性能を求める人が増え、建具の仕事は激減した。出来るだけ地元の材料や技術を使っているが、現代の生活に合う物でないと生き残れない」、小林氏は「早く安くとの価値観が徹底し、住まい方の変化も技能継承への問題。手作りの良さをどうすれば残せるのかを考えている」と各々の立場で発言。
 機械化の必要性と手仕事との共存に関しては、若松氏が「昔はどれだけ手間を掛けるかがステータス。昔の大工と比べ短時間で作業ができる分、少しでもグレードの良いものができれば」、寺西氏は「左官技術で一番大事なのは材料。左官壁をアピールしていきたい」、長谷川氏は「いくら技術が進んでも、作る人の思い入れを含めて製品を選んでくれる人は結構多い」と語った。
 早く安く良い物をとの顧客要求をどう考えるかのテーマでは、濱田氏が「現場で人の手で造らないと、出来上がりに味がなくなる。時間と手間は掛かるが、その分だけ良くなる」。藤井氏は「大工、職人との信頼関係が一番重要。それがお客さんのためにもなる」、寺西氏は「施主と会える機会が多く、良いことも悪いこともすべて話せるのでクレームはない」、小林氏は「住宅建築では、施主が現場を見ることがなくなり、建物に対する知識が減っている。物づくりの過程で皆さんがどういう仕事、苦労をされているのかを知らないことも大きな変化」。濱田氏は「施主を現場に関わらせないような業界の構造になっている。セルフビルドで施主が携わった物件はクレームもない。現場、職人を知ってもらう機会をつくるべき」との意見を述べた。
 続いて、建築の平均寿命が短い日本の現状を踏まえ、建築物は消費物かをテーマに議論。濱田氏は「車を買うように家を買うと簡単に乗り換える。企画や造ること、修繕に関わると残す価値があるとの気持ちが出てくる」、小林氏は「今の家は1世代限りで、空き家が問題。人間だけにある懐かしさの気持ちが大事であり、長く存在する建物は、人間が生きている歴史を実感させる尺度になる。耐用年数や法律の縛りで存在できなくなる現実もある中、どこまで頑張れるかがポイント」と指摘した。
 これからの職人のあり方については、藤井氏が「職人は下請けでなく協力会社。職人の協力なしではやっていけない。職人との信頼関係を、施主との信頼関係にもつなげたい」、若松氏は「若い人にも伝統工法の魅力を感じてもらえるようにしたい」、寺西氏は「左官壁の魅力は厚み。見えなくなる部分も神経を使っている良さを、伝えられるよう勉強したい」、長谷川氏は「自分の作った物が後世の人にも評価されるよう頑張りたい」、濱田氏は「合理性を求めると味気ない物になる。職人気質は大切。職人は社会から求められるものに固執せず、順応性を持ってほしい。今後もプライドを持つべき」、小林氏は「職人の技術が残っていくには、施主が望むことのプラスアルファを提案し、新たな道を作ることが重要」と語った。
 近江氏は「職人気質が施主に伝わるよう職人も頑張り、関係者同士のコミュニケーションをしっかり取りながら、施主には愛着がわく仕掛けをどこかで作ること。ライフスタイルに合うような伝統技術は改革があってこそであり、信頼を築くため、日夜真剣にこの問題に取り組む必要がある」と締め括った。

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