5月26、27日に開催される「伊勢志摩サミット」。この歴史的な大イベントの成功に向けて、国や県、関連業界などが準備に取り掛かっている。特に安全性の確保という責務を全うするため、地元の建設産業も一丸となって環境整備に取り組んでいる。2016年度はさらに、みえ県民力ビジョン・第二次行動計画のスタートという大きな節目でもある。そこで、ことし4月には2期2年目に臨む鈴木英敬知事と、三重県の建設業界を代表する山下晃三重県建設業協会会長に、サミット成功への協力体制、みえ県民力ビジョンの施策、また、建設産業の「道しるべ」ともなる次期の建設産業活性化プランへの期待などについて語ってもらった。
◇新年への抱負
司会 16年を迎え新年にかける抱負から伺います。
鈴木 16年は今の三重県が誕生してから140年に当たり、三重県にとって節目の年となります。その年に千載一遇のチャンスたる伊勢志摩サミットが開催されるわけですから、これを単なる成功ではなく大成功に終えられるようにしっかり取り組んでいきたいと考えています。併せて、今、人口減少への対応や地方創生への取り組みなどさまざまな課題があります。みえ県民力ビジョン・第二次行動計画が新年度からスタートする中で、そうした課題に対して掲げた目標に向けた施策を実行できるようしっかり取り組んでいきます。
また、個人的なことですが、4月に第2子が誕生しますので、仕事と家庭の両立も頑張っていきたいと思います。
山下 伊勢志摩サミットにつきましては、三重県の名が世界に発信されるわけですので、一県民として非常にうれしく、ぜひとも大成功のうちに収めていただきたいと思っています。もちろん建設業協会としても、全面的に協力させていただきます。また、みえ県民力ビジョンの施策により県内経済の活性化と県民満足度の向上が図られ、建設業界も元気を取り戻せるような年になればと願っております。さらに建設業界にとりましては、昨年に施行された担い手3法が運用される中で、その効果を実感できるような年になればと思っております。
◇伊勢志摩サミットの成功に向けて
司会 伊勢志摩サミットがいよいよ近づいてきました。まずは、サミットの成功に向けて何をなすべきか、そのポイントから伺います。
鈴木 サミット開催に向けて、まず、各国からの要人が安全であること、そして円滑に移動できることが大事ですので、会場周辺の環境整備が必要です。具体的には、道路の舗装、警備上必要な照明灯、監視カメラの設置などの安全対策を行っています。それから国内外から多くの方が来訪されますので、三重の美しい風景により好印象を発信するために港湾区域の遊歩道などの景観整備を行っています。また外国の方に、関係会場周辺の案内を分かりやすくするため、英語表記標識の設置も行っています。
サミット開催中には交通規制を行いますので、地域住民の方の生活への影響を最小限にとどめるために一般車両の迂回(うかい)路の確保や地域住民の安全を確保するための歩道整備などの環境整備にも取り組んでいきます。
もう一つ重要なのは全県挙げての取り組みということで、例えば、ジュニアサミットが北勢地域で行われます。また、さまざまな情報発信もしっかりやりたいと思っています。
司会 三重県建設業協会としての取り組みはいかがですか。
山下 まずは、サミット関連の環境整備費については、既存予算の流用ではなく、補正予算対応としていただいたことに感謝しております。
今お話がありました環境整備につきましては、われわれの重要な役割ですので、タイトな工期ではありますが、確実に仕上げるように協会を挙げて取り組んでおります。もう一点は、「伊勢志摩サミット三重県民会議」の一員として参画させていただいておりまして、サミット成功に向けての支援として、昨年12月3日に寄付金を贈呈させていただきました。また、『三重県建設業協会は伊勢志摩サミットを応援します』というメッセージを盛り込んだポスターも2000枚作成し、会員企業の事務所や建設現場に掲示して、サミット開催に向けての機運を高めるための応援事業にも取り組んでいます。
鈴木 特に建設業協会におかれましては、多額の寄付をいただいたこと、またポスターでも支援いただき大変ありがたく思います。そして、環境整備につきましても、ただでさえ年度末の忙しい時期に、非常にタイトな期間の中で、汗をかいていただいていることに感謝しています。
山下 環境整備が一日でも早く完了できるよう業界を挙げて取り組ませていただきます。一つの事例では、舗装工事が伊勢志摩地域に集中しますので、アスファルトの材料の供給が非常に難しくなっています。その対応として、工事ごとに、どのプラントから材料の供給を受け、どういう経路で搬送するかということを検討し、できるだけ無駄のないように、そしてタイトな工期でも確実に仕事ができるように対応していきます。
鈴木 繰り返しになりますが、短期間に工事が集中しますので、建設業の皆さんにはご負担をおかけしますが、よろしくお願いいたします。
こうした周辺の環境整備と併せまして、サミットの安全を守るためのテロ対策の訓練などにも努めており、10月には「テロ対策三重パートナーシップ推進会議」という組織を官民の41の団体でつくり、テロの未然防止に取り組んでいきます。
◇三重県民力ビジョン・第二次行動計画
司会 「三重県民力ビジョン・第二次行動計画」の策定に当たり、特に社会基盤整備につながる「安心と活力を生み出す基盤」の施策について伺います。
鈴木 三重県民力ビジョン・第二次行動計画のうち、基盤整備では、道路や港湾などの交流や連携基盤の整備、都市基盤の整備、ゆとりある住まいづくりなどに取り組み、県民の利便性や安定した生活の確保、地域の経済活動の活性化を目指します。
その中で道路網の整備について、大きな目標としては21年に三重県で開催される国体をめどとし、現在、事業化している区間を早期に供用できるようにすることです。未事業化区間は国の事業を中心に新規事業化をしてもらうことが大切です。“道路はつながって初めて意味がある”わけですから、例えば高規格幹線道路では、国直轄の近畿自動車道紀勢線、北勢バイパスの未事業化区間について、しっかり国に要望して実現していきたいと思っています。港湾も、国体でセーリングの会場に使うところもありますので、整備を進めます。
県管理道路につきましても「道路整備方針」に基づき、バイパス整備、待避所の設置、部分的改良など柔軟な対応も織り交ぜて整備を推進していきます。通学路につきましても「通学路交通安全プログラム」に基づく通学路の安全確保のため、歩行者空間の整備を推進します。道路の関係では老朽化に対応し、効率的・効果的な維持・更新を進めるとともに、点検などのメンテナンスサイクルを確実に実施するため、「維持管理の見える化」に取り組みます。
また、私の選挙の公約の一つとして掲げさせていただいた「伊勢二見鳥羽ライン」の無料化を前倒しし17年4月から実施し、また県営サンアリーナ前の仮設インターの常時開放について、その準備を16年度に進めます。
港湾では、四日市港の霞4号幹線が計画期間中に完成しますので、並行して大規模地震の発生に備え、岸壁の耐震化や強化、また緊急輸送道路の機能を確保するため、臨港道路橋梁の耐震対策を進めます。
山下 みえ県民力ビジョンにつきましてお話をお伺いして、非常に分かりやすく方向性が見えるということで一県民として非常にありがたく思っております。ただ、ご承知のように三重県における社会基盤の整備水準は全国平均と比べますと低位にあると思われますので、住民満足度の向上、防災・減災対策の観点からも社会基盤の整備を着実に進めていただけますよう期待しています。
◇災害対応力の強化 ―官民の協力体制の強化へ
司会 南海トラフによる大規模地震が懸念され、さらには毎年のように豪雨による被害が発生しています。そこで、災害への対応力を強化するための県の施策、また官民が協力する防災体制への取り組みなどを伺います。
鈴木 自然災害を未然に防ぐための予防の施策として、土砂災害に対して、土砂災害危険箇所の基礎調査を実施していますが、通常であれば24年度までかかるものを前倒しして19年度に終えるよう準備を進めています。また、河川の流下能力を回復させるため、市町からの要望も非常に多い堆積土砂の撤去について、16年度予算においては特別枠を設けて実施していきます。さらには、15年に水防法が改正されたことに伴い、想定し得る最大規模の降雨を前提とした河川の浸水想定区域図を作成していきます。
発災後、早期の復興・復旧を図るため、災害発生後の指針となる「三重県復興指針」の策定を進めており、3月末までに公表する考えです。発災後5年となる東日本大震災の被災地では復興が進んでいるところもあれば、道半ばのところもあることを考えて、南海トラフなどによる大規模な災害が発生した時に一日も早く復興するためには事前にどんなことをやっておかなければいけないのかという指針です。こうした指針を考えているのは三重県だけといわれていますので、万全の備えをしていこうと考えています。
ハード面では、河川堤防について、緊急補修対象の189カ所を17年度までにということで現在進めているところですが、一日も早く完了させていく考えです。
官民の協力体制では、災害発生時の緊急対応、そして、早期の復旧のために、三重県建設業協会本部と「地震・津波・風水害等の緊急時における基本協定」を結び、併せて、各建設事務所、下水道事務所と建協支部で「地震・津波・風水害等の緊急時における運用協定」を結んで毎年、共同で訓練や研修を実施し、あらゆる状況を想定した協力体制を構築しています。われわれが防災・減災を実際にやっていく時に、あるいは、災害発生時も含めて、建設業協会の皆さんの協力なくしては、県の防災・減災対策は回り得ないと思っています。
山下 協会としましては、ソフト、ハードの両面からさまざまな形で災害対応訓練に取り組んでいます。ソフトについては、東日本大震災のことから学び、協会が独自に開発した情報共有システムを活用し、13年度から行政機関と連携して情報伝達訓練を実施し、全会員が習熟度を高めるよう取り組んでおります。ハードの面ではこれまでの防災訓練では、行政の方から依頼を受けて、道路啓開などの災害協定に基づく役割をこなす訓練に終始してきました。しかし、大規模な災害が発生し、被災した地域の建設業がほとんど動けない時には、企業間や各支部の連携も必要になるのではないか、ということで本年度は協会独自で協会の全支部が参加する災害対応訓練を9月に実施しました。訓練に当たりまして、国土交通省三重河川国道事務所、三重県県土整備部の共催を得て、12支部から会員企業217社、392人が参加し、道路啓開訓練、浸水地解消訓練、応急仮設橋設置訓練を実施しました。まずまずの出来栄えだったのではと思っていますが、同時に課題も見えてきましたので、今後の訓練で課題解消に向けて取り組んでいきたいと思っています。当日は石垣英一副知事、水谷優兆県土整備部長にもご出席いただき、副知事からは、協会だけでこれだけ大規模な訓練が行われたのは日本で初めてのことでは、とお褒めの言葉をいただきありがたく思っております。
鈴木 日本で初めてということで、私は一番というのが好きなので、本当にいいことだと思います。11年の紀伊半島大水害では、発災直後から建設業協会が緊急対応し、円滑な道路啓開を実施いただいた。その後も道路啓開マップを活用した訓練や研修など継続して協力いただき非常にありがたく思います。
先ほどの伊勢二見鳥羽ラインもサミットで使う路線で、台風による被害で大量の土砂の崩落が発生したのですが、無理をお願いして、10月には片側を通れるようにしましたし、年度内には上下線を復旧したいと思っております。大規模な災害のみならず、小規模な災害でも、建設業協会の皆さんに機動的に協力いただいています。これからもしっかり連携していきたいと考えています。
◇次期三重県建設産業活性化プラン策定へ
司会 三重県建設産業活性化プランの次期計画策定のポイントを伺います。
鈴木 12年3月に、建設産業の活性化に向けた将来ビジョンを実現させるための施策を「三重県建設産業活性化プラン」に取りまとめ、プランに基づく取り組みを進めています。15年度の目標としていた数値は達成できましたが、建設業界の高齢化、若年入職者の減少は一層進行し、また、全産業に比べ建設業の売上高経常利益率が低い状態にあるなど、建設業界は活性化を感じられる状況まで至っていません。そこで現在作成を進めている「次期三重県建設産業活性化プラン(仮称)」では、建設業の抱える「人材確保・育成」と、その実現のための「適正利潤の確保」という課題に対し、受注者の目線で課題を捉え、「未来に存続する企業」を実現させるための具体的かつ魅力的な戦略を打ち出したいと考えています。
建設産業活性化プラン自体は他県にはなかなかないということで、われわれとしては建設業の皆さんとの連携の証しだと思いますし、それを公表していくことで同じ方向性、同じ目標を歩んで行くための「道しるべ」になるのだと思います。
山下 建設業界としましても建設産業活性化プランは本当に大きな柱であり、全国にも先駆けて三重県でスタートしたわけです。国土交通省の方は担い手3法として取り組んでいただいていますが、活性化プランはその先陣を切っているような感じで、建設業協会としても鼻が高いところです。
現行の活性化プランにおける取り組みの数値目標が達成できたのは、設計労務単価の改定などの外部環境の変化によるものもありますが、何よりも県の担当部局がプランの取り組み目標について、きめ細かな進行管理を行っていただいたおかげだと感謝しています。
ただ、建設業に活力がよみがえったかというと、残念ながらあと一息というところでとどまっています。建設業界が活性化するには、若年者にとって魅力ある産業となることが必要なので、次期プランでは労働環境の改善や処遇改善に取り組めるような施策に重点を置いて策定していただければと思います。
鈴木 そうですね。次期プランでは、なんといっても、若年の入職者の人材育成にいかに取り組んでいくかということと、適正利潤の確保などが必要です。また県側の改革として受注者の皆さんの目線で何をどのように変えていくべきかを考える必要があります。そして、三重県内の建設業の皆さんが持続可能な産業のプレーヤーとして、また、先ほどの防災の担い手としての存在を高めていくことで、若者たちが「建設業はかっこええなぁ」と少しでもあこがれて入職するようなことが増えていくように協力していきたいと思います。決して簡単な道のりではないと思いますが、先ほど申しました連携の証しとして、そしてお互いの道しるべとして一緒に取り組んでいくプランにしていきたいと思っています。
山下 協会会員にとりましても、県行政と業界が同じ方向を向きながら同じ問題を抱え、それをいかに克服していくかということになれば非常にありがたいことです。私も長年この業界におりますが、これほど行政の方に業界のことをご理解いただいて同じような方向に進めるというのは、今までで初めてではないかと思っております。おかげさまで、フランクにものが言えるそういう関係ができています。これが本当にしっかりしたものとして長く続けられるようにしていければ業界にとってもありがたいことと思っております。
ただ、見直しに当たり、2点ほどお願いさせていただきますと、1点目は、最低制限価格・低入札調査基準価格の引き上げです。人材を確保し育成していくための経費は一般管理費で賄っていますので、最低制限価格・低入札調査基準価格の設定に当たって一般管理費の算入割合を現行の55%から70%まで引き上げでいただければと思います。2点目は入札契約制度です。総合評価方式における入札手続き事務の簡素化、落札決定までの期間の短縮と、価格競争におけるくじ引き対策をお願いしたいと思います。
それと業界として最もお願いしたいのは、活性化プランから外れますが、「地域人づくり事業」でご支援いただいたこともあり、業界では将来の担い手である若年労働者の確保に向けた取り組みに、重い腰を上げ始めたところです。この取り組みを継続するためにも安定的・継続的な公共事業予算の確保をお願いしたいと思います。
司会 最後に一言お願いします。
鈴木 伊勢志摩サミットという重要な節目を迎える年ですので建設業界の皆さんの協力を得て素晴らしい年にしていきたいと思います。
山下 県行政のよきパートナーとして信頼されるよう今後も技術力の研さんに努めるとともに、皆さんと一緒にサミットの成功に向けて支援させていただきます。
提供:
建通新聞社