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鹿児島建設新聞
2015/11/10

【鹿児島】避難施設の木造化、拡がる推進の動き

 最近、集中豪雨、台風、火山の爆発、竜巻など災害が多発、日本各地に深刻な被害をもたらしている。被災地では被害に遭った人たちを一時的に避難させるプレハブ住宅の建設など復興が急ピッチで進んでいる。県内でも5月に屋久島の口永良部島で新岳が爆発、全島民(78世帯118人)中、48世帯71人が屋久島町宮之浦の避難所で不自由な避難生活を送っている。被災者の多くが高齢者で避難先での生活の長期化に伴う健康面への影響などもあり、居住性の在り方などが問われている。
 避難住宅は、その目的から緊急かつ短期間に大量の住宅を確保しなければならないという制約があり、住み心地など「住環境に配慮した住まい」という観点からその条件を満たすのは、なかなか難しい状況にある。
 東日本大震災では、多くの被災者がプレハブ住宅での長期の暮らしを余儀なくされ、震災のショック等も手伝って体調を崩すケースも増え、住宅の改善・改良を求める声が少なくないのも事実。
 口永良部島の爆発では、48世帯が屋久島町宮之浦地区に避難、27戸のプレハブ仮設住宅が建設された。昨年、県木造住宅推進協議会などの呼び掛けで県林材協会連合会が協力、県建築協会が窓口になり県との間で緊急時の仮設住宅建設の協定を結んでいたこともあり、各団体の期待は膨らんだ。しかし、離島という制約もあるなかで、避難所生活の長期化は避けなければならず、緊急性などからプレハブに落ち着いたという経緯がある。
 そんな中、注目を集めているのが木造住宅。木材は、軽くて丈夫な上に加工がしやすく、優れた調湿性、衝撃緩衝作用などの特性があり、最近では健康、心理面への好影響などから注目されている。

 ■今回は供給体制整わず断念

 地場工務店としてかねてから木造住宅を推進している姶良地区木材協会理事で、鰹Zまいず(霧島市)の有村吉孝会長は「20数戸程度なら2週間で整備できる計画だった。しかし、県木造住宅推進協議会の仮設委員会ではロフト付きで再利用可能な仮設住宅を基本プランとしていたため、簡単なプレハブの6畳2間の規格型との勝負になった。豊富な在庫を持っているプレハブ業界とは違い、緊急に間に合わせる必要性から材料の供給・施工体制などが整わず、今回の木造化は断念せざるを得なかった。木造の方が健康面でも体によいことはわかっており、被災者のニーズにも十分応えられるはずだった。しかし、避難所の仮設住宅という緊急的な対応から実現は難しかった…」と、残念がる。
 「島の人にしてみれば、仮設住宅で暮らすという選択肢の前に一日も早く島に帰りたいというのが本音だろう。でも帰れないというジレンマがそこにはある。鹿児島県は火山活動が活発な地域で台風の常襲県。そういう地域性を考えれば、被災者の心理的な面も考慮しながら木造の仮設住宅については、川上から川下まで業界がさらに連携強化を図り、引き続き検討していかなければならない問題」(有村会長)と、今後の課題に据える。

 ■熊本では48戸の木造仮設住宅

 東日本大震災などの被災地では、木造仮設住宅の建設や検討が進められ、実現しているところも多い。熊本県では57人の死傷者を出した2012年の九州北部豪雨の際に熊本県優良住宅協会(岩井健一理事長、地場工務店22社加盟)が音頭を取り、計5カ所に合わせて48戸の木造仮設住宅を約1カ月で建設、被災者が入居を果たした。
 それに先立って11年には、協会と県、熊本市の間で災害時に仮設住宅建設に協力するという防災協定を締結。県内の住宅展示場に木造仮設のモデル住宅を建ててPRするなど、木造住宅の利用促進に取り組んできた。その成果が出たもので同協会の事務局は「理事長をはじめとした執行部のリーダーシップや加盟各社のまとまりの良さも導入が決まった要因」と振り返る。
30uの2DK、40uの3DKの2タイプがあり、広さは家族数などを考慮して対応、予算は一戸当たり約500万円。災害後に被災地の阿蘇市、熊本県から同協会に対し「木造でできないか」との打診があり、これまで行政との連携を強化してきたこともあり、当時の福永力三理事長らの強力な呼び掛けで建設が決まったという経緯がある。入居者からは「温もりがあり、木の香もよく、居心地がよい」との感想が聞かれるという。
 熊本県住宅課の上野美恵子主幹は「改良を加えたモデルもあり約1カ月で完成にこぎつけた。建設地は5カ所に分散していたが、ほぼ工期通りに進んだ」と語る。
 住宅完成後に蒲島郁夫知事から協会に感謝状が贈呈され、福永前理事長は「被災者の方が無事入居された際は笑顔が見えて安心した」と感想を述べ、蒲島知事は「創造的復興の象徴」と、感激の様子を語っている。

 ■川路建設は6帖2間の規格住宅開発

 また、十年前から木造住宅推進の立場から森林組合と提携して工事現場事務所の建設に取組んでいる指宿市の叶路建設の川路豊会長は、間伐材を利用した各種工事の現場事務所専用の木造化に意欲的。意匠登録をして「もく蔵」の商品名で売り出している。「すでに6帖2間の規格品を開発済みで間仕切りもОK。もちろん、トイレなどを併設することで仮設住宅としても対応できる。現場で組み立てれば、簡単に立ち上げられる。課題は戸数が多い時にどう対応するかで、ストック用を考えた場合には広い倉庫などが必要なケースもある」と語る。杉材の集成材は、断熱材としての効果があり、壁材、床板として利用でき、ちょっとした物置として使えるなどのメリットがある。

 ■川上、川下の施工体制確立が課題

 こうした業界の取り組みについて、鹿児島県木材住宅推進協議会事務局を務める県住宅建築総合センター企画部企画課の新福剛課長は「台風、桜島の降灰など、その地域性もあるが…」としながらも「木造仮設の場合、一戸9坪が条件。最低でも2DKは必要。木造化の話があったことは聞いているが、口永良部島の場合は緊急性などの制約もあり、調整が間に合わなかったと聞いている。仮設住宅の場合、価格、居住性、スペースなど総合的な判断を求められ、基本的には川上、川下の施工体制を整える必要がある」と、課題に挙げる。
 国の地方創生事業など地方の活性化策が求められる中、地元木材を活用する需要拡大策については業界の期待も大きい。被災者救済を含め地場工務店などの活性化を図る上からも行政と連携したさらなる取り組み、早急な供給・整備体制の構築が望まれる。