北海道建設新聞社
2015/07/17
【北海道】農業用ダムで道内初の小水力発電−緑ダムの事業化が決定
市町村が管理する農業用ダムで、小水力発電を導入する動きが具体化し始めた。小清水町など斜網地域1市4町が共同管理する緑ダムで、道内初の事業化が決定。芽室町の美生ダムは、民間活用を含めて年度内に導入の是非を固める。一方で、事業の可能性調査をする管理者は減少。施設や送電網の整備費用が多額で採算性などの課題があるためだ。導入を促すには地元負担の軽減策が必要となっている。
本州では農業水利施設を活用した小水力発電を導入し、固定買い取り制度を活用して施設の維持管理費を削減する取り組みが進んでいる。一方で道内は、かんがい用水利権の期間が営農期間に限定されていることや、積雪による維持管理が難しいため、「これまで農業水利施設を小水力発電に活用した事例はない」(道の担当者)という。
道が2013年度に策定した小水力発電導入基本整備計画には、道内で小水力発電への活用が期待できる農業用ダムは70カ所あり、その発電容量は3万`hを超えるという調査結果を盛り込んでいる。
これに伴い、管理者の市町村や土地改良区などは、農林水産省の事業を活用して、ダムや用水路などへの小水力発電施設設置に向けた検討を進めた。道によると、14年度末までに事業可能性調査を実施したのは計23カ所に上っている。
このうち、案件形成を経て概略設計に進んだのは緑ダムと美生ダムの2カ所。このほかは、建設費と維持管理費に対する売電収入との採算性が難しいとし、ほとんどが事業化を断念したという。
15年度の調査は、留辺蘂土改区が留辺蘂地区で太陽光発電の設置を検討する1カ所のみ。年々、調査の要望が少なくなっていて、道農政部の担当者は「頭打ちになったのでは」とみている。
小清水町をはじめ、清里町、斜里町、大空町、網走市で構成する国営畑地かんがい事業斜網地域維持管理協議会は、共同管理する緑ダムへの小水力発電施設導入の可能性について2カ年にわたり調査した。その結果、冬場の維持放流も発電に利用でき、採算が取れると判断。6月の首長会議で事業化を決定した。
現在は発電方法などの調整を進めている。総事業費に5億―10億円掛かる見込み。送電線は、清里町札弦にある北電の変電所まで約15`離れていることから、事務局を置く小清水町の担当者は「事業費の半分くらいは電線の設置になるのでは」と話す。
施設の建設費や実施設計費などは、事業費の半分の助成が受けられる国の地域用水環境整備を活用する予定。ただ、国の補助を受けても負担はまだ大きいことから、同協議会は道の支援も視野に入れ、さらなる負担軽減に向けた協議をする考えだ。
一方、芽室町が管理する美生ダムでは、小水力発電施設を設置した場合の財政シミュレーションを進めている。可能性調査では、最大出力710`h、概算事業費8億3800万円を試算した。
冬季の発電対策としては、河川放流水の利用を計画している。具体的には、夏季はかんがい許可水量の範囲内で発電し、それ以外の季節はダム流入量から、かんがい用水と河川維持流量を引いた無効放流分を発電用水に利用する。
事業の推進に当たっては、自前でやるか、建設から管理までを任せるESCO事業などの民間活用も含めて検討する。芽室町の担当者は「まだ建設費用などで不確定な部分が多い。いくつかのパターンで費用対効果を算定し、年度内にも方向性を固めたい」と話している。
このほか美瑛、上富良野、中富良野の3町で管理するしろがねダムで、導入に向けた概略設計に15年度から着手した。可能性調査では、国の助成を受けて施設を建設すれば、年間約2000万円の維持管理費を含め、売電収入で採算が取れることが分かった。
ただ、送電線の詳細な費用がまだ把握できていないため、美瑛町の担当者は「約20`の送電線が必要なことから、事業費は増えるのでは」とみている。少しでも負担の軽減を図るため、緑ダムと同じく、道に支援を要望する方針だ。