今後10年が命運決める 諸課題解決へ 人材不足 踏まえプレキャスト化など生産性向上を
(一社)日本建設業連合会(日建連、会長・中村満義鹿島且ミ長)と、九州地方整備局をはじめとする九州の主要な発注機関との公共工事の諸問題に関する意見交換会が9日、福岡市のホテルオークラ福岡で行われた。日建連側が掲げた意見交換のテーマは、前年と同様に「社会資本整備の進め方」と「担い手確保・育成と円滑な施工の確保」だが、新たなサブテーマとして「建設生産性の向上」を盛り込んだ。
意見交換に先立つあいさつの中で金尾健司九州地方整備局長は、「九州は火山、台風、豪雨、さらには南海トラフの地震など、災害リスクの高いところ。安全をどう確保するかが大きな課題」とした。併せて「九州の経済状況に目を向けると、製造業や農林水産業だけでなく、観光面も好調。この元気さを日本の成長に繋げたい」とも述べた上で、「安全や成長を支えるのがインフラ。ストック効果をしっかり発揮できるインフラの整備を、私たちと皆さんとで一緒に進めていきたい」と参加者に語った。
一方、日建連の宮本洋一副会長・土木本部長(清水建設且ミ長)は、「少子高齢化の担い手不足が建設業の生産体制の破たんに繋がる」といった、日建連がことし3月に策定した長期ビジョン『再生と進化に向けて』の内容に触れ、「この先10年を命運を決める10年≠ニ位置付け、ビジョンの実現に向けて諸課題を解決したい」と決意を示した。
意見交換のうち、社会資本整備の進め方では、日建連側が「ともすれば経済性に頼りすぎた」と、これまでのインフラの整備効果の説明の在り方を自省。今後は、主軸をインフラのストック効果に移す方針を示した。
もう一つのテーマである担い手確保・育成と円滑な施工については、適正な工期の設定や設計変更、生産性の向上といった「受注後にいかに良いものを作り上げるか」の視点を中心に意見交換した。
工期の設定では、日建連側が施工現場の83%が4週4休・5休で、4週8休は5%しかない調査結果を説明し、現状の工期設定で完全週休二日の実施は難しい実態を示した。そして、適正な休日の取得や利益の確保、技能労働者の所得確保など「当たり前の事をしなければ 若い人たちに見捨てられる」と訴え、担い手の確保に向け、関係者が一体となった努力の必要性を指摘した。これに関連し、円滑な設計変更や支払いつながる『設計変更ガイドライン』について日建連は、九州地区の県・政令市は、他地域と比べて策定が遅れていると、早急な対応を求めた。
長崎県 設計変更・一時中止GL本年度策定 九地整側は、4週4休について「基本スタンスとして確保すべきと考えている」と述べ、週休2日のモデル工事の実施状況を踏まえ、今後の拡大などを検討するとした。一方、設計変更ガイドラインは、九州地整で現在進めている見直し作業が完了すれば、他の自治体での策定も進むとの見通しを示した。長崎県についても、設計変更と一時中止の両ガイドラインを本年度中に策定予定だという。
サブテーマの一つとして新たに掲げた生産性向上は、少子高齢化をはじめとする担い手不足を見据えたもの。今回は、高密度配筋解消のための機械式鉄筋定着工法とプレキャスト化について意見交換した。
鉄筋コンクリートの配筋については、阪神・淡路大震災以降、せん断補強筋の増加などで高密度化。効率的な施工を阻害するだけでなく、熟練鉄筋工の離職や高齢化により対応できる人材の確保が難しくなっている。配筋方法には、効率性に優れ、熟練度に左右されない機械式鉄筋定着工法もある。だが、土木構造物では設計段階から採用されている例はわずか。日建連側は「誰が見ても合理的なのに、積極的に対応しているのは北海道開発局のみ」と述べ、他地域での普及促進を求めた。
プレキャスト化ついて日建連は、将来的な人材不足が決定的な中、省人化・省力化、工期短縮を実現すると有効性を主張。「コストが高いとの誤解があるが、直接工事費のみを比較するのではなく、共通仮設費や現場経費なども含めて検討してほしい」と訴え、北陸や東北など既に活用している地整の例を挙げ九州でも活用検討を求めた。
これに対し九地整側は、両施策の有効性を認めた上で、業界との意見交換や試行を踏まえて今後の展開を探っていくとした。