日本工業経済新聞社(群馬)
2013/01/07
【群馬】次につながる受注システム構築へ−新春インタビュー・笹森秀樹県県土整備部長
先月の総選挙では政権与党だった民主党が多数の議席を失う中、自民党が単独過半数を確保した。自民党は東日本大震災の発生などを踏まえ、国土の安全・安心を図るべく国土強靱化を訴え、政府では今10兆円規模と言われる大型補正予算の編成に向けた作業に着手している。防災・減災を目途とした公共事業の促進に期待が高まる中、本紙では新春特別企画として県県土整備部の笹森秀樹部長へ緊急インタビューを敢行した。笹森部長は国土交通省出身。本県へ着任してから間もなく丸2年を迎えようとしているが、この間入札契約制度の見直しや建設業支援のための方策など、さまざまな施策を打ち出してきた笹森部長。大型補正予算への対応や見直しを行った『はばたけ群馬・県土整備プラン』、今後の新たな取り組みについて聞いた。
−本県に着任し、まもなく2年が経過するが
笹森 着実に仕事が進んでいる。県土整備部の最上位計画である『はばたけ群馬・県土整備プラン』を見直したが、かなり精緻な計画に仕上がった。最終的には現在、実施中のパブリックコメントを経て2月県議会で議決いただくことになるが、土木事務所を含めて部の職員全員が一生懸命取り組んだ成果にほかならない。
−その際のリーダーシップは
笹森 プランの見直しは、職員の高い能力の発露である。わたしは『さあ、始めよう』と言ったのに過ぎない。
−ただ、職員へは相当な叱咤激励があったと聞いているが
笹森 今回の見直しでは治水や砂防の目標の設定と事業の優先順位の考え方、各施設の長寿命化計画などもしっかりと位置付けた。職員が『こうしていくべき』と自らが考えデータを集め、議論を重ねて策定したもの。わたしは議論に参加しただけである。
−昨年の総選挙では自民党が圧勝した。自民党が掲げる国土強靱化に対しては
笹森 医療の発達や教育で救える命があるのと同様に、社会基盤整備によって救える命は確実にある。災害の発生に対し、われわれ人間は極めて無力であり、一定の考え方に基づき、災害に備えた施設整備を事前に準備しておくことが県土整備部の使命。東日本大震災はもとより、阪神・淡路大震災、新潟・福島豪雨、一昨年の台風12号および15号などを踏まえれば、これからもレベルの高い防災を進めていくべき。東海、東南海地震、首都直下型地震、火山噴火への対応などやるべきことはたくさんある。命を救うためには事前の備えしかなく、時間は限られている。
−大型補正予算の編成作業が進んでいるが、県としての対応は
笹森 社会基盤整備は一朝一夕で完了する話ではないし、われわれ職員だけでできるものでもない。当然ながら測量設計業や建設業の方々の力も借りなければならない。そういった意味では一過性のような予算措置ではなく、継続的な考え方を示してもらいたい。被災地では笛や太鼓で作業員、受注者を集めようとしてもなかなか集められないが、これからも社会基盤整備が継続的に促進されるという姿勢が示されれば、民間企業はしっかりと設備投資を行うし、新たな雇用も増える。学生も建設業界を指向するようになる。そういったことが必要であり『継続的な投資をするんだ』というメッセージをぜひ出してほしい。
−公共投資を増やすことに対する批判が出る恐れもあるが
笹森 新たな県土整備プランを取りまとめたが、その中では各事業の整備目標と投資による成果の見通しも掲げたところであり、すべての事業・箇所に対して優先順位も示している。そのため、本県においてはどのような形で予算が付き、どのような執行が求められたとしても、今もっとも効率的かつ即座に対応できるようなプランが仕上がった。その点では予算が付いたらプランに基づき、県民目線でもっとも急がれている事業に投入することができる。税金の無駄遣いといった批判は出ないと自信を持っている。
−県土整備プランは何点の出来か
笹森 パブリックコメントによって、県民の皆さまからどういった意見が出てくるかにもよるが、わたしとしては国、そして全都道府県を含め、これだけの精緻さをもって優先度と重要度で事業を並べた計画はないと自負しており、かなりの高い点数を付けられるのではないか。ただ、計画の策定が終わりではなく、その計画に沿って着実に実行していくこと、さらには実行しながら、その時点時点の目線で見直していくことが大事。
−総選挙の結果は、県土整備プランを進めていく上で追い風となりそうか
笹森 現状よりも社会資本整備に目が向けられることを期待しているが、実際のところ、国と県の財政状況を考えた場合、必要な社会保障のお金などが減るわけではないため、昔のような巨額な予算を社会資本整備に投資することは難しい。われわれとしては着実に整備レベルの向上を目指すとともに、長年かけて建設したインフラを大事に使い、後世に残していけるような維持管理の面が重要と考え、長寿命化計画を県土整備プランへ位置付けたところ。
−全国に先立ち、電子納品システムを活用した中間前金払手続きの簡素化を図ったが、その効果は
笹森 これまでの電子化はどちらかと言えば、役所側のニーズで進められてきた。しかし、今回の簡素化は電子化が受注者側にとっても効果のあるものと分かってもらえる画期的なシステムと考えている。このシステムの良いところは、電子納品に必要なデータを中間前金の申請に活用できること。それも書類への記入などがデータ活用によってワンクリックで作成できてしまうことにあり、まさに電子化の良い点を具現化できたシステム。中間前金払の利用実績も昨年に比べ相当伸びており、全国にもこのシステムが広がればと考えている。
−常々口にする地域に貢献する企業や技術力のある企業が受注できるシステムづくりの構築については
笹森 社会資本整備は現場に合わせてオーダーメイドで造っていただく一品製作であり、しかも契約してから造っていただくもの。工業製品のように既製品を買うというものではなく、安ければ良いというものではない。指名競争入札は企業の実績を評価し、その工事が確実にできる方々の中から次の受注者を選ぶという発注者にとってありがたいシステムだが、その一方、競争は価格のみで行われる。優良企業を指名するところまではできるが、参加企業の中から能力の優劣を付けた上で競争できていないのが指名競争入札の弱みでもある。そこで考え得る1つが地域に貢献する企業や技術力のある企業、知事表彰を受賞した企業を価格以外で評価する総合評価落札方式条件付き一般競争入札。それが指名競争入札と同じような競争環境下で、プラスに評価できればと考えている。現在は、土木事務所の範囲内で競争する総合評価落札方式条件付き一般競争入札を試行しているが、その中で知事表彰や部長表彰に関する加点をさらに強化した形で実施したい。常日ごろからよく『表彰を受賞しても名誉にしかならない』と言われるが、次の受注につながる仕組みといったものが必要であり、より加算点を増やした工事案件を試行していく。
−要は、総合評価の評価項目で表彰実績や工事成績評定の点数、災害出動状況などをこれまで以上に加点するということか
笹森 良い施工をした企業がいかに報われるかへのアプローチが第一であり、わたしが考えるのは公告文へ『この工事は知事表彰受賞企業への加点がいくつ』『この工事は地域貢献企業への加点がいくつ』といった形で明示し、表彰が受賞できるぐらい工事成績評定の高い企業が次の受注につながるサイクルを構築したい。それを本年度内に試行できればと考えている。
−業界へ向けて一言
笹森 昨年も大きな災害などが全国的に頻発したが、日本列島は災害から逃れられない国であり、建設業および測量設計業を営んでいる方々がいて初めて国民・県民の安全を守ることができる。皆さま方には自信と誇りを持って本年も対応していただきたい。また、今まで以上に安全・安心な国土づくりに理解が得られる環境になると思うので、ぜひ若手技術者の育成などにも取り組んでもらい、県民の安全・安心をわれわれのパートナーとして守っていただきたい。わたしも精一杯努力していく。