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建通新聞社(静岡)
2011/11/16

【静岡】連載・静岡県建設産業ビジョンまとまる@ 県建設業審議会・小川雄二郎会長に聞く 「過剰供給構造改善の第一歩に」

 静岡県内の建設産業は今後どう在るべきか。川勝平太知事の諮問を受け、ことし2月から議論を進めてきた静岡県建設業審議会(会長・小川雄二郎富士常葉大学非常勤講師)が、「力強く安全安心な“ふじのくに”づくりに向けて」と題した静岡県建設産業ビジョンを取りまとめ、11月4日に川勝知事に答申した。
 建設業の過剰供給構造を是正するため、社会保険未加入業者などを“不良不適格業者”と位置付け排除する方向を打ち出す一方、過疎地域などでの災害対応空白地帯の発生を防ぐため、地域の建設企業を存続させる必要を明記。“存続すべき建設企業”の一つの姿として、「法人格を備え、経営戦略など企画的業務を持つ企業で、県の入札参加資格審査の総合点数が1000点以上(過疎地域は4割程度割増)の総合工事業」を概念として提示した。
 未曾有の災害が相次ぎ、復旧・復興を支える建設業の重要性があらためて認識される中、ビジョンに基づく県内建設業の再生と活性化は可能なのか。
 本紙では、県建設産業ビジョンの策定に携わった有識者や需要者、建設業者、そして行政の代表者に、それぞれの立場からビジョンをどのようにとらえているのかインタビューし連載する。初回は小川雄二郎会長に話を聞いた。
――ビジョン策定を終え、会長としての感想を。
 「幅広い分野の委員で構成する委員会だったが、民間工事の発注者でもある需要者の委員の発言が多くあり、県民に近い感覚と意識を持ってビジョンをまとめることができたと感じている」
 「例えば『外部から見て建設業は非常に閉鎖的に見える』『需要が減り続けているのに、業者数が減っていない。過当な競争が起きて当然ではないか』といった意見が審議会の最初の方で出された。他産業の置かれた現状や仕組みと、建設業がかけ離れているのか指摘するもので、これがその後の議事進行やビジョンの取りまとめに影響を与えた」
 「建設産業界は、総合工事業から専門工事業、そして建設関連業の協力で成り立っているが、さまざまな業種や規模のすべてをフォローする内容をビジョンに盛り込むことはできなかった。しかし、需要に対して供給が多すぎるという過剰供給構造をどうするのか、という点がビジョンをまとめる上での最大の課題だと感じていたし、そこに踏み込むことができたことを評価している」
――さまざまな意見や提案を反映しているが、ビジョンに盛り込んだ方針や施策の中で特に強調したい点は。
 「静岡県内の建設産業は、新東名の建設などもあって、ほかの地域よりも“建設バブル”が長引いたのではないか。過剰供給への対応が遅れ、地域に必要とされる建設業者が淘汰(とうた)される厳しい環境に置かれている」
 「基礎体力がある企業を育て、採算を確保できる体質に変えていくことは非常に重要だ。ただ、そこには大きな痛みが伴う。建設投資が激減する中で、建設産業界の再編が進んでこなかったのは、それが容易でないことの証しだ。ビジョンに基づく施策を、業界と行政が継続して取り組む、あるいはそうした仕組みがなければ実現は困難だろう」
――委員会では、海外や新分野への進出を進めるべきだという意見もあった。
 「委員会の議論でも、海外への進出や新分野への挑戦という提案があった。しかし、体力のある一部の総合工事業者を除けば難しい。『出来上がった製品を売る』という製造業の理論は建設産業界には成り立たない。建設産業にとっての製品は社会基盤そのものであり、それを適切に維持していくことが求められている。建設産業の役割は、地域の生活や社会活動を維持することでもあり、地域に密着した建設業者が生き残らなければ地域や社会に大きな影響を及ぼす。災害対応空白地帯を発生させないための取り組みをビジョンに明記したのはそのためだ」
 「また、ビジョンに提示した多くの施策がきちんと進められたか確認するよう、審議会でフォローアップしていくことにした」
――ビジョンを踏まえて建設産業界に望むことは。
 「ことしは多くの災害が発生したが、どこにどのような災害が発生したのか行政はすぐに把握できない。一方、地域の建設業者は、どこが危険でどこを確認すれば良いかを知っている。例えば、災害協定を締結するだけでなく、地域の業者が災害の発生しやすい危険な地域や、そこで活動できる業者をデータベース化し、行政や地域に提案することができるのではないか。専門性を生かし、地域になくてはならない存在となるための取り組みはまだあるだろう」
――ビジョンの実現に行政に対して求めることは。
 「建設産業でも従事者の高齢化が大きな課題だ。建設産業界を活性化するためのカンフル剤として、公共投資の増額を求める声は多いが、それだけでは一時的な効果で終わってしまう。建設業を産業として位置付けるのであれば、若年労働者を確保し育成していくことが欠かせないだろう」
 「建設産業を今後どうしていくのかというのは、社会基盤をどのように整備・維持・管理し、地域経済を成立させていくのかを方向付ける。そのためには、社会基盤整備を担当する部局だけでなく、産業や教育関連の部局まで連携した施策の実施を求めたい」
(2011/11/16)
建通新聞社 静岡支社