北海道建設新聞社
2011/06/14
【北海道】優良職長に割増賃金−人材確保へ大手ゼネコン
優秀な技能者に自社現場で働いてもらうため、大手ゼネコンが優良職長を賃金で優遇する制度が道内でも普及を始めた。低賃金による人材不足が著しい中、技能者を現場に送り込む専門工事会社は「本人も若い職人も励みになる」と期待を膨らませる。その半面、導入をためらうゼネコンからは「専属で来てもらうには、それだけ工事量の確保が必要」と悩みが聞こえる。
優良職長に割増賃金を支払う制度は、旧日本建設業団体連合会(現・日本建設業連合会)が2009年にまとめた「建設技能者の人材確保・育成に関する提言」がきっかけとなった。
相次ぐ受注競争の激化から技能者への低賃金化が広まり、若年者を中心に業界離れが進む。本道は特に「職長クラスの中堅職人が辞めていく深刻な人材難にある」(専門工事関係者)。
提言には「基幹技能者の職長の中から、特に優秀と認める優良技能者を認定し、標準目標年収が600万円になるように努める」と明記した。日建連が、この制度に関する会員企業アンケートを実施すると、14社が10年度中に何らかの形で手当を支給すると回答した。
道内では大林組と清水建設が11年度から職長の優遇制度を開始し、10年度から試行してきた戸田建設は11年度から本格実施に移した。
大林組は「認定基幹職長(スーパー職長)制度」を創設し、7月初めにはスーパー職長が全国で誕生する。2年間で約150人の認定を見込む。
割増賃金は1日当たり、大林組の現場での経験年数に応じて2000―3000円。職種はとび、土工、型枠大工、鉄筋、左官、坑内員の6つ。成果を検証し、人数や職種を増やす考えもある。
札幌支店からは、とび・土工と左官の2人の職長が申請している。大林組の協力会社でつくる札幌林友会の鈴久名健副会長は「本人の励みとなるだけでなく、若い職人の憧れとなり、上を目指そうという雰囲気が生まれるのでは」と相乗効果を期待している。
清水建設北海道支店は「職長手当支給制度」として7月1日から実施する。各現場が職長の貢献度を評価し支給額を決める。金額は1日500円から1500円まであり、現場の裁量で認定できるのが特徴だ。
戸田建設札幌支店は、「優良技能者手当」を本格実施に移した。10年度に引き続き、躯体関係の職長を中心に20人余りを認定する。金額は1日525円。
また東急建設は日建連が提言する前の05年度に「優良職長(マイスター)制度」を創設。有効期間5年の優良職長を認定し、報奨金として年に一度1人当たり10万円を支給している。
東急建設札幌支店のマイスターは11年度まで延べ61人。職種は躯体やとび・土工、左官など。5年の失効後にあらためて審査する。
大成建設札幌支店は、東京で制度を運用しているが本道での導入は検討中。鹿島北海道支店は手当はないが、安全表彰で有利になる「上級職長制度」を運用している。
本道のゼネコンも、伊藤組土建が「安全大会で表彰し、功績を評価している」と技能者の向上心を誘発している。岩田地崎建設も意欲向上には理解を示し「技能のレベルダウンは安全や品質に関わる。しかし割増賃金は難しい」と語る。道外のゼネコンを含め賃金アップに踏み切れない背景には道内の工事量不足が立ちはだかっている。
あるゼネコンの担当者は「切れ目なく工事がなければ、優秀な職長を抱え込むことは難しい。工事の前にスタンバイしてもらっても、受注できるとは限らないし、次の工事がある保証もない」と東京など大都市と異なり、工事量の激減した道内で制度が通用するかは疑問と語る。
職長の優遇制度は、各社ゼネコンが災防協などと連携して運用している。ゼネコン団体の関係者は「建設市場の縮小で原資に乏しいのが実態。民間企業が解決するには問題が横たわる」と胸中を語る。
国は社会保険に未加入の下請けを公共工事から排除する方針を固め、地方自治体は下請けへの賃金を保証する「公契約条例」の制定を検討する動きがある。
関係者は「公共工事の場合は、契約額とは別に賃金や手当を上積みする制度があってもいいのではないか。何らかの行政支援がなければ構造的な問題の解決にはならない」と官民連携による突破口を探っている。