静岡県は、交通ネットワークビジョン「東海道新時代」を策定するため、外部有識者で構成する検討委員会(委員長・家田仁東京大学大学院教授)を立ち上げた。5月31日に開いた初会合では、「東日本大震災を踏まえ、費用対効果だけにとらわれないネットワークづくりを考えることが必要」「“通過点”となりつつある静岡の価値を、リニア中央新幹線によって再び高められる可能性がある」「交通ネットワークの利便性だけでなく、“通過されない”ための目的を設定することが必要」などの意見が出た。交通ネットワークの在り方や連携方策などを工程表に沿ったビジョンとして11月までにまとめる。
県内では、2009年に静岡空港が開港し、12年に新東名開通が見込まれているほか、清水港の整備や三遠南信道など高規格道路網の整備が進んでおり、リニア中央新幹線の事業化も現実になりつつある。そこで、今後も持続可能な発展を遂げられるよう、これら陸・海・空のネットワークの在り方や連携方策などを考え、人や物が快適に行き交い、多様な交流や地域の自立を進めるための施策を短期・中期・長期の視点でまとめることにした。
第1回検討委員会では、交通ネットワークの現状や課題などを踏まえ、各委員が意見を交わした。
残間里江子氏(キャンディッドコミュニケーションズ会長)は、新東名や三遠南信自動車道など現在整備中の交通ネットワークが完成すれば利便性が飛躍的に向上するものの「問題は目的。便利になっただけでは通過されてしまう」「インフラに東日本大震災のような“異常時”を想定すべき」と述べた。
大久保あかね氏(富士常葉大学教授)は、「大動脈となる幹線だけでなく、地域の道路など“毛細血管”の在り方が重要」「交通ネットワークができつつあることを県民が知らない」と指摘。田中孝治氏(地域づくりサポートネット副会長)は、「震災で由比近辺の東名・国道・鉄道が被災すれば、日本全体の産業や暮らしに大きな影響が出る。そのバックアップ機能もある新東名の役割をきちんと示すべき」「技術も含め“限界がある”という前提の下、ネットワークづくりを考えるべき」との考えを述べた。
中嶋壽志氏(静岡経済研究所専務理事)は、「道や港などハードに合わせ、民間企業の物流拠点の県内移転を目指すなどのソフト施策を具体的に打ち出すべき」とした。
次回6〜7月の委員会で交通ネットワークの連携に関する具体的な方策を各委員が提案、8〜9月の委員会でビジョンの論点を整理し、10月に素案をまとめる。県民意見を反映した上で、11月にビジョンを策定する予定。
建通新聞社 静岡支社