北海道建設新聞社
2011/03/24
【北海道】橋梁安全点検の盲点指摘−落橋事故教訓に北海学園大教授
ライフサイクルコストを考慮した橋梁の維持補修の研究などを専門とする、北海学園大工学部の杉本博之社会環境工学科教授は、2007年8月に発生した米国ミネアポリスでの落橋事故を教訓に、現在の橋梁安全点検システムの盲点を指摘している。設計や施工段階の不備を点検者に求めるのは困難とし、「もちろん点検は大事だが、結果から安全性を検証するシステムがないのが問題。完成検査の厳密化とペナルティーの徹底も必要だ」と説いている。
米国ミネソタ州にあるミネアポリスとセントポールの2都市を結ぶI―35W橋は、ミシシッピ川に架かる高速道路の鋼トラス橋。1967年に供用開始した。設計ミスのほか、供用後に橋自体の荷重が増えたことなどが重なり、現地時間の07年8月1日午後6時5分に落橋した。
杉本教授は、このほど開かれた北海道ICR工業会の講演会で、この落橋事故などを例に挙げ、点検結果を通した橋梁管理の問題点を指摘した。
この事故は、相互の部材を接合する鋼板「ガセットプレート」の設計ミスが要因の一つとされている。使われたガセットプレートの厚さは1・27cmで、求められる水準の半分しかなかった。
供用初期から死荷重(橋自体の荷重)が23%増えたのも原因とみられている。建設当初の重量は8300dだったが、77年の床板の増し厚で1360d、98年の隔壁補強で544dそれぞれ増加。供用から30年余りで、橋自体の重さは計1万204dに上った。
さらに落橋当日は、補強工事で橋面に砂利や重機などの建設資材が置かれ、重量が増していたのも災いした。管理の不十分さも指摘されている。
米国の国家輸送安全委員会(NTSB)が08年10月にまとめたレポートでは「高レベルの圧縮軸力を受けた斜材上端の横方向への不安定な移動を、同じく高レベルの応力状態にあったガセットプレートが防ぐことができず、崩壊が始まった」と指摘。「ガセットプレートがAASHO(米国州有高速道路管理者協会)の基準を満たしていれば、事故時点での橋梁上の荷重は支持できた」と説いている。
落橋の要因となったガセットは、点検員が事故発生前の03年6月に撮った写真で、はっきりとゆがんでいたことが後に確認されている。
杉本教授は「本来はどこかで照査されるべき現象が、照査を通らないまま数年間使われ、落橋してしまった」と説明。「道内も同様。点検していても結果を誰がどこで照査するかは、いまだに見えてこない」と警鐘を鳴らす。
さらに「ガセットプレートは橋梁の部材の中でも安全側にウエートを置いて設計されているため、点検員に厚さやゆがみが問題だと気が付かせるのは無理」とし、「日本の(道路橋)示方書では、ガセットの厚さは十分とられているが、図面や製作段階で変更されると点検時のチェックは難しい」と指摘する。
その上で「道内の橋梁でも排水桝の機能不全が散見されるが、雨水の床板中への浸入は疲労強度の劣化を招き、床板の耐力低下となる。点検段階では一見、あまり重要でないような欠陥も注意するような教育も必要だ」と主張している。