北海道建設新聞社
2011/03/04
【北海道】受注するほど体力消耗−北海道の鉄筋業界
元請け建設会社の低単価受注が道内の鉄筋工事現場にも暗い影を落とし、第一線を担う技能者の不足が顕著になり始めた。鉄筋工事業界は負のスパイラル≠ノ陥り、人材育成や会社経営が難しくなる一方で、求められる技術は高度で複雑化している。受注すればするほど会社の体力が消耗する、やりきれない構図に、鉄筋工事業の経営者たちは「私たちは使い捨てなのだろうか」とうなだれ、長年の信頼関係が断ち切れそうだと天を仰ぐ。
札幌市内に本社を置く中堅の鉄筋工事会社は、15年前まで季節雇用の技能者100人を雇っていた。同社の社長によると「職人は今や40人にすぎない」と語り、工事量の減少と単価の下落が「職人の削減と人手不足を招いた」といびつな相関関係を説明する。
7年前に比べて鉄筋工事の技能者数は10%減だが、実質的には25%減と大幅な流出傾向にあるという。
その理由について、札幌市内の別な鉄筋工事会社の社長は「道内に籍を置く職人が本州に出稼ぎに行ったまま戻ってこられないからだ」と打ち明ける。
季節雇用の技能者は毎年3月になると出稼ぎから引き上げてくるが、2008年秋のリーマンショック以降、市内を中心に分譲マンション工事などが激減すると「通年の出稼ぎが常態化した」と同社長。
鉄筋工事の技能者は複数の現場を掛け持ちしている。同社長は「1現場に1グループが2、3日行っては休むサイクル。だから現場が少ないほど稼ぎが悪くなる。市内の工事量では職人の生活が成り立たない」と背景を語る。
その上「北海道の労務単価は国内で最も安い。北陸新幹線の単価は北海道新幹線より10―15%高いので戻ってくるはずがない」と断言する。本道の単価は「この3年で15―20%低下した。しかも昨年秋から今までにない急降下をした」と指摘する。
ある鉄筋工事会社は、30―40代で働き盛りの技能者の年間平均収入が260万円前後。さらに健康保険、雇用保険、厚生年金の加入割合が極めて低い実情がある。
業界の関係者は「一番問題なのは、若い人材が入らず辞めることだ」と嘆く。中には50代の職長クラスが転職するなど人材問題は深刻さの度を増し、全国建設工事業国民健康保険組合(工事業国保)の問題で、資格打ち切りに悩む中小零細の鉄筋工事会社は経営に見切りを付け始めている。
さらに別な鉄筋工事会社の社長は「この1、2年でゼネコンも気付くと思う。このまま職人が不足すれば技術は確実に低下する」と警告している。
ゼネコン間のダンピング合戦で、下請け会社との単価交渉や歩み寄る余地がないばかりか、指し値が横行し、拒否するそぶりを見せれば「『代わりの会社はいくらでもある』とすごまれた」(同社長)と元請け会社も切羽詰まっている。
ゼネコン協力会で幹部を務める社長は「長年の信頼関係が崩壊し出している。リスク回避のため材料を2社に分割して支給する元請けがある。私たちはやはり使い捨てなのだろうか。下請けの経営を危うくしたのはどちらなのか」と声を荒らげる。
鉄筋工事が全体に占める工事金額は急速に縮小するが、その半面、求められる技術は高度で複雑化し、安全管理や品質管理の書類作成など従来にない業務負担が重くのしかかっている。
業界の幹部は3月に実施する登録基幹技能者の認定講習受け付けの際に、「今回で終わりかと思ったら、まだ30人以上の受講希望者がいた。希望を抱いて働いている若者が間違いなくいる。彼らのためにも、適正な単価を実現させたい」と語った。