北海道建設新聞社
2011/02/10
【北海道】「やればやるほど赤字」−低単価が型枠業界を直撃
技能者の絶対的な不足が現実問題となり、綱渡りで2010年の工事をこなした北海道の型枠大工業界が、ことしの工事本格化を前に不安を募らせている。根幹にある低単価の問題が改善しないどころか、ゼネコン間の受注競争は激化するばかりで「やればやるほど赤字になる」と頭を抱えている。現状のまま受注量だけが増え続ければ「勇気を持って断る選択肢もある」と苦渋の決断を迫られている。
型枠大工の不足が表面化したのは10年9月以降。工事の繁忙期に入り、各社とも現場からの要請に数少ない技能者で調整してきたが、次第にやりくりがつかず、悲鳴を上げ始めた。
札幌市内で型枠大工を雇う建設会社の幹部は「人数が少ない今、複数の現場の要請には応えきれない。元請けからの携帯電話は毎日鳴ったが、うかつには出られなかった」と真顔で語る。
型枠専門の建設会社(札幌)は、15年前に直用の型枠大工を120人も雇っていたが、現在では30人にまで減少している。「リーマンショック以降に市内の分譲マンションが激減すると、さらに工事単価が低迷。業界に見切りを付けた職人が急激に去っていった」と同社の社長。
型枠大工の単価は、道内でも道央圏が特に低く、分譲マンションでの低単価が目立つ。別の型枠専門会社の専務は「最盛期で月34万―35万円の収入がなければ職人を引き留めることができない」と語る。
さらに別の型枠専門会社の専務は「法定福利費の負担が重く、今の低単価では社会保険の加入はあきらめざるを得ない」と声を潜める。
少ない技能者ながら10年後半を乗り切った札幌市内の型枠会社は「2次下請けや3次下請けはもっと悲惨。地方の同業者に応援を頼み、職人をかき集めた。道央の相場の2、3割増の単価を支払った」と振り返る。
品質確保や下請けへのしわ寄せを懸念し、開発局と道は09年度に相次いで最低制限価格や低入札調査基準価格を引き上げた。しかし関係者は「恩恵はまったく感じない」と、やり場のないむなしさを痛感している。
他方、型枠関係者は首都圏の動きにも神経をとがらせている。大手ゼネコンが人手不足から東京の型枠会社に1日2万円を支払って大工を集めているとの情報を聞き、「道央圏の2倍の単価。もし本当に来たら、相応分がわれわれの賃金から引かれたのではと思うと背筋が寒くなった」という。
ゼネコンが工事を急ぐ背景には、工期短縮≠ニいうもう一つの競争がある。関係者は「コスト削減のために工期を削る。そのため一度に大量の職人を投入する必要が出てくる。適正工期、適正人員ならまだ対応の余地があるが、こちらはコストダウンどころかコストアップ」と負のからくりを説明する。
「墨出し≠ニいう建物の根本を担う職種に対し、重み付けの賃金を分配してほしい」とし、単価改善の兆しが見られなければ「これ以上の発注量があっても、自信を持ってやれる会社はない。最終的には工事を選別し、勇気を持って断る工事も出てくる」と苦しい選択をせざるを得ないという認識が広まっている。
業界からは行政に適正な賃金の確保を求め、CM(分離発注)方式の導入や札幌市が前向きに検討している公契約条例の制定などへの待望論が浮上している。
優秀な型枠大工を輩出してきた会社の経営者は「かつてはゼネコンに立派な型枠大工を育てろと言われ、望まれる理想像を追い求めてきた。広大な敷地に資材置き場を造り、作業員宿舎も建てた。だが今残っているのは借金だけだ」とため息交じりに語っている。