北海道建設新聞社
2010/12/27
【北海道】「良いトイレは人を呼ぶ」女性視点で公共トイレを考察
良いトイレは人を呼ぶ―。空気調和・衛生工学会、建築設備技術者協会、電気設備学会の3つの北海道支部はこのほど、「女性の視点からのトイレ」と題した地区講演会in札幌を開き、公共トイレの在り方を考察した。建築設計事務所や機器メーカーらが、トイレの役割が拡大変化し、快適さや安全性、メンテナンス性などパブリック空間としての機能が求められていると指摘。商業施設では集客要素になっていると、時代とともに変わるトイレの位置付け、必要な装備や維持管理の手法などにも言及した。
講演会では、札幌市内のJRタワー38階にある眺望トイレを設計した女性チームの一人、設計事務所ゴンドラ(本社・東京)の小林純子所長をはじめ、それらを清掃管理する北海道クリーン・システム(同・札幌)、TOTO(同・北九州)マーケティング本部UD推進部、寒冷地仕様トイレを開発してきた光合金製作所(同・小樽)、山岳トイレでの廃棄物減容化を促す山形県遊佐町、ユアテック(同・仙台)の各担当者が、ものづくりや施設管理の視点で問題提起した。
トイレ設計の権威でもある小林氏は、トイレ像が変化してきたと説明。排せつ行為だけでなく化粧、休息、授乳、おむつ替えなど、パブリック空間としても活用されていると留意し、利用者本意の造りを説き、高齢者や障害者と共生するユニバーサルデザイン(UD)、メンテナンスを読み込んだ設計、災害時や防犯上の視点などを求めた。
それらは女性の満足度で解決できるとし、「女性がトイレを変えてきた。(進化の)キャスチングボート、決定権を握っている」と強調。ステラプレイスで行ったアンケートでは、商業施設の評価ポイントにトイレが上位に上り、「良いトイレを造れば客が来る。女性視点で作れば(快適性は)男性にも通じる」と述べ、集客要素であるとした。
また、設計者を産みの親、管理業者を育ての親に例え、コンセプトと現実の差を埋める取り組みも不可欠と述べた。
TOTOの江藤祐子氏は、ものづくりの観点で公共トイレについて語り、外出時に子ども連れで利用しても不便を感じない空間設計を提案した。現在は、国の指針で多機能型トイレが随所に設置されているが「(同トイレに)UD機能が集約されてしまった。ベビーカー、荷物を抱えた子ども連れのお母さん方は(健常者のため)気兼ねしながら使っている」と問題視。一般のトイレブースにもUD機能を落とし込む必要性を挙げ、2m角の空間にゾーニングして2人の子どもを同時に見守り、それぞれを安全にサポートする研究を説明した。
光合金製作所設計部の加川美香氏は凍結防止に向け、テープヒーターや、小樽で増えているという床暖房などを駆使した寒冷地仕様について説明。「かつて汚い、臭いといったイメージの公衆トイレが、10年ほど前から徐々に改善され、道の駅などで清潔なトイレが整備されてきた」と、コスト面に優位な水抜きシステムが多く導入されていると述べた。システムは進化し、気温センサーで冬季には水抜き稼働して、夏季には作動しない仕様が登場している。
ユアテックの赤井仁志氏は「江戸時代まで日本では、地方の女性たちは小用を立って済ませていた。大正に入ってもその風習は残っていた」と述べ、お年寄りに多い腰の慢性リウマチに対応するため、福島県立医科大で講師を務めた高橋信子氏(現付属病院婦長)とINAXが、女性用立ち小便用便器を開発したと話題提供した。水を使わないため、節水機能も期待できると紹介。1950年代には、TOTOもサニスタンドと呼ばれるサイホン式便器を製造している。