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建通新聞社(東京)
2009/10/07

【東京】連載『低入札の行方〜都の特別重点調査〜』 A業界の本音 「低入札でも利益」の声も

 「社員を遊ばせておくわけにはいかないからね」。あるゼネコンの経営者は低入札で受注する理由について、あらためてこう話す。
 このゼネコンはグループ会社を含め1000人超の社員を抱えている。社員数に見合う工事が受注できればいいが、できなければ、社員への給料などが丸々持ち出しになる。経営を維持していくためには、やはり「量の確保」が至上命題なのだ。
 改正独占禁止法の施行(2006年1月)をにらんだ大手ゼネコンの「談合決別宣言」以降、公共の土木工事をめぐる受注競争は激化の一途をたどった。減り続けるパイの中で大手は価格勝負に出た。中堅も大手に伍していくため負けじと低入札で応じる。
 そして、特別重点調査を導入した国の機関を避け、落札の可能性が高い未導入の自治体にみな照準を合わせる…。東京都の大型工事もそんなターゲットの一つだったのだろう。
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 「1件の工事だけで見ればそうかもしれないが、われわれは地域で考える。地域という単位で、トータルとして赤字が出ないように工夫している」。低入札でよく指摘される「赤字受注」に対するゼネコン営業担当者の弁だ。
 会社の規模が大きいほど、この地域が示す範囲が広いという。マイナス分を全体でならす考え方は、東京都の低入札価格調査に臨んだ業者の「社としてバックアップする」との回答とも符合する。
 しかし、会社の利益は一つ一つの受注の積み重ねの成果であるはず。仮に低入札で受注した工事の赤字を、ほかの工事で得た利益で補てんしているのであれば、ほかの工事の本来的な利益や、下請けなどに本来回る経費が削られてはいないか。
 「かつての協力会社はみないなくなった」というゼネコンもあるだけに、下請けに対するしわ寄せは現実に起こっているようだ。
 低入札を重ねて利益の縮小が続けば、人材確保や技術開発は難しくなり、いずれゼネコン自体の経営に響いてくる。その結果が「そろそろ決算に表れてくる」ともいわれる。
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 「都の工事はまだ予定価格が高い。実勢価格が下がり続けている現状では、低入札でも利益は出る」との声もある。
 なぜなら議会案件やWTO対象になるような大型工事は入札手続きが長いからだ。公表時には適正な積算であっても、入札までに資材などの価格が変動すれば、実勢との乖離(かいり)が生じる。
 これは都が単品スライドの導入に合わせ、単価をこまめに見直すようになった後でも変わらないという。積算が実勢に追いつかない状況は、逆に資材などの価格が上昇した場合でも同様。予定価格の事前公表によって「利益が出るか」の目算を立てることも、事後公表に比べれば容易だ。
 ただ、低入札で落札決定しても、その価格の範囲内で工事が完成するとは限らない。とりわけ土木工事は施工に入ってから明らかになる現場条件によって「設計変更」が相当程度ある。低入札の工事では、これまで暗黙のうちに受注金額の中で工面していた設計変更経費を捻出できないため、すぐに発注者に設計変更を申請するという。
 実際に「設計変更の申請が増えた」と話す都の担当者もいる。
 「低入札価格調査で発注者に『問題なくできる』と回答したことを、現場で実際に『間違いなくできる』とは言い切れない」。あるゼネコン営業担当者の意味深長な言葉が引っ掛かる。(つづく) 

     

提供:建通新聞社首都圏本部東京支社