「労働安全対策などの法令順守の徹底や、中長期的な工事品質の確保の観点に立って、速やかに強化する」。去る9月14日に開かれた第3回東京都議会定例会・本会議で、村山寛司財務局長はこう答弁し、極端な工事の低入札に対する「特別重点調査」の導入を正式表明。既に4月から強化していた低入札価格調査制度を再び強化し、より厳格に履行の可否を審査する方針を打ち出した。
アメリカの金融不安に端を発した世界同時不況によって、昨年秋以降に都の大型工事で極端な低入札が増加した。2008年度末には土木工事で予定価格の50〜60%台の応札が頻発し、中には同じJVが同種の工事3件を低入札で同時に落札した。民需に支えられていた影響から、低入札がほとんどなかった建築工事でも予定価格の70%を切る最低札が出ていた。
4月からの強化策では、当面の対応として▽監理技術者などと同等の要件を満たす技術者を1人増員▽1番札の調査にかける日数は原則4週間以内▽書類提出は原則5日以内▽配置予定技術者もヒアリングに出席▽審査結果は公表―を掲げた。加えて、国土交通省が取り組む「特別重点調査」などの導入も検討し、09年度の早い時期に実施するとしていた。
学識者委員会で検討している総合的な入札契約制度改革の結論を、もはや待てる状況ではなかった。
ただ、4月以降も低入札がやむ気配は見えず、電気設備工事で予定価格の30%台の最低札を落札決定する事態も起こった。
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「こんな低入札が認められるのか」。7月16日の第3回都議会定例会案件工事の開札結果に、都のある職員は憤りを隠せなかった。
確かに再び低入札が出る可能性は予見できていた。それでも、当面の対応である低入札価格調査制度の強化策を打ち出し、あらためて業界の自助努力を求めたはずだった。
事実、低入札をやめるよう会員に通知した業界団体もあったし、業界団体との意見交換会で低入札に対する「反省」の弁も耳にしていた。
しかし、ふたを開けてみれば7件すべてが低入札。このうち土木工事と建築工事の各1件の最低札は予定価格の50%台だった。特に建築工事で50%台で応札したJVは、別の建築工事でも予定価格の60%台の最低札を入れた。
都庁内の一部では、強化策の運用で最低札を排除しようとするとする動きが活発化した。しかし、施工上の工夫の余地が大きい大型工事で、履行できるかどうかを調べた上で「契約」するのが低入札価格調査制度の趣旨。強化策でも基本姿勢は変わらないし、これまで最低札の落札決定を回避したケースはないに等しい。
極端な低入札だからといって、開札後に調査を厳しくしたのでは、自分でつくったルールを自ら破ることにもなる。
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調査に臨んだ最低札の各社は要求していた資料を整えて提出、一様に「実績の確保」や「受注意欲」を低価格の理由に挙げた。ヒアリングでも齟齬(そご)はなく、品質の低下や下請けへのしわ寄せ、安全対策の不足などもないという。万が一この工事で赤字が生じた場合には、社として全面的にバックアップするとの回答も返ってきた。
低入札への疑念をぬぐえなくても、これ以上の追求はできない。現行制度の限界だった。
同時期に公営企業局の超大型シールド工事でも、予定価格の40%台という低入札が発生したが、調査の結果はやはり同じだった。
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大型案件を任された都の担当者は、残業を続けながら数カ月間をかけて発注図書を作成する。ようやく入札手続きに乗せて、開札までこぎ着けたと思えば低入札。落札決定後、工事が始まれば重点監督に相当の時間を割かれる。パートナーであるはずの施工者の一挙一動に不安が募る。
「俺のやってきた仕事はこの程度の値段だったのか」「もうこの業者とは二度と付き合いたくない」
仕事への責任感と思い入れの強い担当者ほど、低入札への不信を抱いている。 (つづく)
提供:建通新聞社首都圏本部東京支社