3月16日投開票の鴨川市長選挙で初当選を果たした佐々木久之氏が、日刊建設タイムズの独占インタビューに応じた。家業が採石業で、千葉県採石事業協同組合専務理事を務めるなど、建設業との縁も深い。し尿処理施設が稼働から40年以上経過していることを踏まえ、PFI方式の導入も視野に、新施設の整備を最優先で進める。廃止された市民会館に代わる(仮称)芸術文化ホールの建設、小中学校の統廃合、Park―PFIの導入も視野に入れた前原横渚海岸周辺の観光拠点化について検討を進めていく。
―鴨川市との関わりと印象は。
佐々木 鴨川市で生まれ育ち、大学進学に伴い東京に移住した。卒業後は、民間企業への就職を経て、家業の採石業を継ぐため25歳のときにUターンした。自然は豊かだが、発展しておらず、昔と代わり映えしない印象。厳しい財政状況を改善していかなければならない。
――市長就任に当たっての抱負と展望は。
佐々木 地域経済を活性化し、歳入を増やして歳出を減らすことにより「稼ぐ自治体」への転換を図る。まずは、ふるさと納税に力を入れる。返礼品は、市の特産品として意外なものでは「千葉アクアメロン」があり、評判が良い。「かずさ和牛」は、高級ブランド牛にも引けを取らない。そのほか、亀田総合病院の人間ドック、釣り船体験などをそろえている。
――し尿処理施設の改築・更新について。
佐々木 1982年3月の稼働から40年以上が経過し、延命化しても2030年度には新施設が必要と指摘されている。近隣の自治体との広域化や外部委託による処理も模索したが現実的でないため、既存施設の修繕を行いながら、市単独での新施設建設を最優先で進めていかなければならない。現在は環境影響評価を進めている。事業手法としてPFI方式も視野に入れている。
――小中学校の統廃合の検討は。
佐々木 鴨川小学校は建物が古く、コンクリートの剥落などのおそれがあり、危険な状況だが、財政状況から早期の新校舎建設はできない。そのため「鴨川小学校、西条小学校、田原小学校の3校を統合」または「東条小学校も加えた4小学校の統合」について方向性を示した上で、早急に鴨川小学校をいずれかの学校に仮統合・移転し、将来的に鴨川中学校周辺に統合小学校を整備することが妥当と考えている。仮統合・移転に当たっては、必要に応じて校舎を増築する。
――(仮称)芸術文化ホールの建設について。
佐々木 市民会館が20年3月に廃止され、市民から新施設整備の要望が多く上がっている。文化・芸術面で市民に楽しんでもらう施設が必要であるため、建設手法に関する調査、研究などを継続する。建設地については、総合運動場敷地内が予定されていたが、ゼロベースで検討していく。
――市民会館跡地を含む前原横渚海岸周辺の観光拠点化について。
佐々木 前原横渚の海岸線一体での整備を検討している。地元の方からはスケートボードパークやバスケットボールコートなどの整備の要望が寄せられているが、市単独では難しいため、Park―PFI方式の導入の可能性を探っていく。
――広域火葬場の改築更新について。
佐々木 安房郡市広域市町村圏事務組合は、南房総市山名の安房聖苑と鴨川市東町の長狭地区火葬場を保有し、長狭地区火葬場が老朽化している。新施設を整備する場合、土砂崩れの影響を受けやすい現在地での建て替えは難しく、鴨川市が移転先となる土地を用意する必要がある。安房地域に2つの火葬場が必要かについても議論の余地があるため、パブリックコメントなどにより地元の方々の意見を聞きながら検討していく。
――高規格道路の事業着手に向けた取り組みは。
佐々木 館山・鴨川道路について、地元関係団体などと連携を図りながら、引き続き国へ要望し、事業化・予算付けに向けて取り組んでいかなければならない。高規格道路「館山・鴨川道路」整備促進期成同盟会で要望活動などを展開しているが、民間団体の参画も促し、体制を強化していきたい。
――市道の整備に関して。
佐々木 貝渚大里線の整備を進めている。未整備区間の貝渚地区について用地に関しておおむね同意を得たことから、全線開通に向けて注力する。
――当初予算は骨格予算となっているが、肉付けの状況はどうか。
佐々木 4月臨時議会に上程する補正予算に、陸上競技場のスタンド改修の設計費とトラックの改修工事費を計上する予定だ。スタンドは台風で屋根が破損し、雨漏りも発生しているため、全体的な改修が必要。トラックは老朽化による劣化が生じていることから、日本陸上競技連盟による第3種公認更新を見据えて整備を行う。
――鴨川松島再生プロジェクト協議会会長としての活動について。
佐々木 家の近くに鴨川松島という海岸がある。Uターンした30年前には、海水浴場としての利用はなく、整備されていない状況だったが、10年ほど前に鴨川松島再生プロジェクト協議会を立ち上げ、地域の皆さんと一緒に整備を行った。今では観光スポットになっており、協議会として年に5〜6回、草刈りやごみ拾いを行っている。
――地域の建設業に対する思いは。
佐々木 公共事業において、入札不調や建設業の人手不足による停滞なども生じているため、地域の建設業に支えてもらう必要がある。大規模な工事以外は、地元企業への優先発注を継続する。災害時にも建設業の協力が不可欠であるため、連携を密にしていきたい。
――趣味、習慣は。
佐々木 家から徒歩1分で海があり、釣りを楽しんでいる。また、主に250ccのバイクに乗り、ツーリングに行っている。釣りが趣味であるほか、登校の見守りをやっていることから、早寝早起きが習慣になっている。
〈略歴〉
ささき・ひさゆき
帝京大学経済学部卒業。14年、市議会議員選挙で初当選。市議会議長、安房郡市広域市町村圏事務組合議会議長、千葉県市議会議長会監事を歴任し、3月16日投開票の鴨川市長選挙で初当選した。1970年1月16日生まれ、鴨川市出身。座右の銘は、ドイツ初代帝国宰相オットー・フォン・ビスマルクの格言「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」。