北海道建設新聞社
2024/11/27
【北海道】道内公共建築で入札不調や発注延期が続出/積算単価と実勢が乖離
資材価格上昇や作業員不足により、道内で公共建築物の発注に暗雲が垂れ込めている。入札不調をはじめ施設規模の見直し、発注延期が続出。岩見沢市の新病院建設では病床数の大幅な削減が検討されている。市町村の積算単価と実勢の賃金や資材価格を上回る現実が横たわり、施工業者からは「このまま進めば、公共事業を支えられない」との悲痛な声が聞こえる。
総務省の労働力調査によると、2023年時点の道内建設業従事者は17万人。年に1万−2万人ずつ減っていて、統計資料が残る2000年(33万人)より半減した。
建設物価調査会がまとめている建築費指数を見ると、基準年の15年(100)に対し、札幌地区の工事原価は23年平均でRC造が126・6、S造が128・6を記録。RC造、S造ともに15−21年までは年1−3㌽程度の上昇にとどまっていたが、22年以降は約8㌽ずつ伸びている。
24年度の入札動向では、道営住宅新築や警察共済組合発注の札幌市内や近郊の交番新築で価格が折り合わず、入札方法を見直して対応した。
札幌市もまちづくりセンターなどで衛生、電気設備の不調・中止が発生。23年度には澄川西小と光陽中それぞれの建築、電気、機械の計6件が不調となり、工事内容を含めて発注予定を再検討中だ。長期休暇期間中に進める従来型の改修だけでなく、仮設校舎に機能を移して工事を通年化させる手法も視野に入れる。
新得町が7月に公募型プロポーザルで事業者を募った道の駅新設は、全グループの辞退で中止。参加要件の緩和や提案上限額の引き上げをし、25日付で再公告した。
8月に入札予定だった温浴施設やプール、図書館などで構成する弟子屈町の複合型観光交流拠点施設新築。参加者が集まらなかった衛生と空調を機械設備に集約した上で再度公募した。
計画自体を練り直す動きも目立つ。岩見沢市は、市立総合病院と北海道中央労災病院を統合し、28年春の開院を目指す新病院建設について、施設規模の見直しを進めている。施工予定者の大手ゼネコンが提示した概算工事費見積額と、市の工事参考価格に約60億円の開きがあったからだ。病床数を90床減の372床、延べ床面積は7780u減の3万2500uに縮小にする方向で内容を詰めている。
旭川市立大は新学部校舎新築の入札で、構造を見直して12月2日の開札にこぎ着けた。基本設計はRC造で検討したが、地域連携事務室などを追加したことで延べ床面積が拡大。実施設計で構造をS造に切り替え、工事費の抑制を図った。
仁木町は銀山地区義務教育学校整備で事業費が膨らむとの試算から基本設計の修正に入った。実施設計と着工の時期をそれぞれ1年先送りし、施工期間も単年から2カ年に変更。開校は2年遅れの28年度となる見通し。
ロシアのウクライナ侵攻に端を発する世界的な資源価格の高騰、円安に振れたままの為替、泊発電所の停止と物価上昇が収まる気配はない。発注者側も実勢価格との乖離(かいり)を認識している一方、技術系職員の不足で緻密な積算ができていない状況が浮かび上がる。
「利益率は下がるばかりで会社の存続、人材獲得に影響する。このまま進めば、土木を含めて地元の公共事業を支えられなくなる」と道央のゼネコン副社長。市町村発注工事では資材価格の上昇などを施工業者がかぶっているケースも多く、足元ではスライド方式の徹底運用が求められ、国や道の恒常的な財政支援が必要となっている。