北海道建設新聞社
2024/11/01
【北海道】札幌で分譲マンション供給にブレーキ/土地や資材高騰が影響
札幌市内で分譲マンションの供給にブレーキがかかっている。住宅流通研究所(本社・札幌)の調査によると、2024年1−9月の新規発売戸数が前年同期と比べ8・2%低下。着工棟数も近年は減少傾向にある。土地や建築資材の高騰を背景に、高値となったマンションは初めて住宅を買う1次取得層には手が出ずに低迷。新築は施工業者と工事費で折り合いが付かず、一部で着工できない事態も起きている。道外大手デベロッパーは、富裕層やインバウンド向けにターゲットを絞る一方、地元企業は賃貸マンションや宿泊事業へと方針転換する動きが出ている。(経済産業部・武山 勝宣、及川 由華記者)
「道内でファミリー向けのニーズを捉えるのは難しくなっている」。大和ハウス工業(本社・大阪)の担当者は、高価格帯となっている分譲マンションを敬遠し、賃貸や戸建てに需要が流れていると市況を分析する。従来のやり方では販売が難しいため、別の用途、顧客層に切り替えて事業展開する必要があるとの考えを示す。
同社が新たに力を入れるのは民泊対応マンションの開発。自宅以外に民泊や賃貸、セカンドハウスとして対応可能な都市型コンパクトマンション「モンドミオ」は、取得したオーナーが資産として活用できる。団体で長期滞在を希望するインバウンドの受け皿として道外や札幌市外の購入者が増えているという。近年、大通公園エリアやJR札幌駅近くで取得を進めるマンション用地は、モンドミオの採用を視野に計画を練るもようだ。
一方、市内で新規供給を増やすのはハイグレードブランドの「ブランズ」を展開する東急不動産(本社・東京)だ。札幌市中央区南1条西25丁目と同区大通東3丁目、西区西町北でそれぞれ施工中。市況が低迷する中、供給を推進する理由として同社の担当者は「首都圏を中心とした道外の顧客に対するネットワークを広く持っていることが強み」と説明。都心をはじめとする好立地な場所で引き続き開発を進めるとする。
住宅流通研究所の調べによると、1−9月の新規発売戸数は、新型コロナウイルス感染症で営業業務が混乱した20年を除き、例年1000戸以上の供給を維持していた。
しかし、24年は高価格帯による販売の難しさから10戸未満の小口発売が目立ち、967戸にとどまっている。
新築物件も建築資材の高騰で、計画を見直すケースは後を絶たない。国土交通省のまとめでは、24年1−8月の道内分譲マンション着工戸数が計779戸と前年同期比43・4%の減少となった。
2月と8月に関しては着工件数がゼロと異例の事態となっている。再開発や千歳市内で活発化するラピダス(本社・東京)関連工事の影響で、施工業者選定が難航していることも要因の一つにある。
最も問題に直面しているのは実需に見合う物件供給を進めてきた地元デベロッパーだ。ある事業者は「分譲マンションを建築する予定で仕入れた土地が計画通りに動かず、やむなく賃貸物件に切り替えて売買した」と吐露。土地の高止まりや資材高を物件に価格転嫁をした場合、世帯年収400万円前後の1次取得層には到底供給できないと述べ、今後の開発は厳しいと肩を落とす。
分譲マンション事業が低調なため、収益が見込める利回り物件の取得や自社物件のリフォーム、管理といった事業転換にかじを切り始める事業者も少なくない。
別の地元デベロッパーは、ホテル事業の展開や賃貸マンションの積極的な開発などを手掛けてリスク分散を図るとする。比較的安価な土地を仕入れて低層の賃貸物件の供給を進めると話す事業者もいた。
住宅ローンの金利上昇や建築資材の高騰など業界の先行きが不透明の中、道外大手、地元デベロッパーともに企業の生き残りを懸けて柔軟な対応を取っている。