NPO法人とやまの木で家をつくる会などが連携し、能登半島地震で被災した住宅を、ひみ里山杉を主に使って再建するプロジェクトが始動した。
第1号として地震で半壊の認定を受けた氷見市阿尾の住宅を解体し、柱や梁、桁といった構造材のほか、壁、床、屋根もすべて杉の厚板を用いる伝統工法「板倉構法」で建て替える。板倉構法は県内では初めて。
地域の木材を使い里山を保全しながら、地元の工務店や製材業者が協力する地域循環型の持続可能なモデルを構築し、能越地域の災害復興につなげる。また、富山大芸術文化学部の籔谷研究室の学生が情報発信やワークショップを通じて板倉構法の魅力を伝える。
施主は千葉県と2拠点生活を送るNPO法人自伐型林業推進協会事務局の荒井美穂子氏で4年前に、築約60年の木造2階建て住宅を購入、移住した。東日本大震災のボランティア活動で目にした板倉構法による仮設住宅を、今回の被災で思い出し、社団法人日本板倉建築協会代表理事で里山建築研究所(茨城県つくば市)主宰の安藤邦廣筑波大名誉教授に相談して設計を依頼した。荒井氏は「古い建具や梁を見た安藤先生から、今では手に入らない残すべき物と言ってもらった時は、うれしかった。地震で愛着がある家を手放さなければならないと思っている人たちに、この家を参考に何か感じ取ってほしい」と語る。
安藤氏は「ひみ里山杉は、能登半島全域の住宅需要をカバーできるほどの生産量がある。南海トラフ地震も言われるが、日本人が災害や戦争に備えて懸命に植えてきた山に眠っている資源で各地域が復興を成し遂げることは可能で、今はこの地域が資源を使う時だ。再建に留まらず、持続可能な社会をつくるモデルを見せたい。木材に関わる川上から川下までの業者が連携して実現させる」と意気込む。
施工はとやまの木で家をつくる会の長森稔会長が代表取締役社長を務めるミヅホ建設(富山市)が担当。長森氏は「太い松の梁をはじめ、建具や瓦など一部は再利用し、建築コストを抑えながら、古い家の記憶を残した新しいものを造りたい」と話す。
建具は採寸して整理し、7月末から解体工事に入った。解体後の9月に着工し、2025年2月の竣工を目指す。建設規模は木造平屋建て約60平方メートル(約18坪)。杉材は約27立方メートル使われる。
プロジェクトに携わる一般社団法人ひみ里山杉活用協議会長の岸田毅岸田木材代表取締役は「氷見の木、しかも葉枯らし天然乾燥した木も含めて提供する。暑い夏を越した完璧状態になった杉板で、健康に良い家を建ててもらいたい」と話している。