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北海道建設新聞社
2024/06/19

【北海道】札幌市が水素供給網構築へ/価格差支援で今夏の事業化申請を検討

 札幌市は、水素の供給網(サプライチェーン)構築を実現するため、政府が2024年度に始める水素事業の価格差支援を利用し、早ければ今夏の初回公募で事業化申請を検討している。水素の製造・貯蔵・販売の拠点形成を目指すのは新会社が担う。申請と並行して10月ごろに北海道電力や北海道ガスと新会社の設立を計画し、北洋銀行と北海道銀行の地銀2行とも出資参画に向けた調整を進める。金融・資産運用特区の決定を追い風に取り組みを加速させる構えだ。(建設・行政部 高田 陸記者、解説記事2面に)
 市政関係者への取材で判明した。
 政府は水素基本戦略で、国内製造と海外購入を合わせた水素導入量を現在の200万tから40年に年間1200万tに拡大する目標を掲げる。5月に成立した水素社会推進法に基づいて15年間で3兆円規模の価格差支援を計画する。初回公募は夏ごろの開始を目指していて、低炭素水素などの供給や設備投資を補助する。
 価格差支援は「値差支援」とも呼ばれ、事業コストを回収できる水準の水素基準価格と、化石燃料などの参照価格を比べて、差額全てを補助するものだ。支援は15年間で、補助を受けた供給事業者には支援後に10年間の供給継続を義務付ける。
 資源エネルギー庁が年内に1件目の採択を目指し、25年以降も継続的な審査を予定していることを踏まえ、市は今夏からの公募期間で事業申請を検討している。市以外に、新会社の共同設立を計画する北電や北ガス、エアウォーターなどが主体となる見通しだ。ただ、支援制度の全容がまだ明らかにされていないため、来年の申請に狙いを切り替える可能性もあるという。
 市は、9月開会の第3回定例市議会で出資に同意を得て、10月ごろに新会社を設立したい考えだ。北洋銀と道銀とも出資参画を調整する。このほかにも水素の供給や需要、資金調達を担う事業者を増やすため「市内の大企業にローラー作戦で参画を呼び掛けている」(市政関係者)状況だ。
 新会社は、まず再生可能エネルギーによる水素製造や輸送・貯蔵、利用について調査検討を進め、供給網構築の事業性を検証する。金融特区に基づき、水素貯蔵量や、銀行によるGX関連事業への出資について規制緩和の活用を模索する。
 将来的には、燃料電池車や水電解装置を研究開発するトヨタ自動車などにも出資や連携を働き掛けたい考えだ。市幹部は「将来的には取引や利活用を取り仕切ることを目指したい」と話す。
 ただ、価格差支援の制度設計や支援期間を巡っては疑問の声も上がっている。大手エネルギー企業の幹部は「支援終了後も10年間は水素供給を義務付けられるが、そのときまでに調達コストが採算に合うほど下がる保証はない」と指摘する。
 需要面でも、乗用車などのモビリティや燃料電池(FC)、混焼発電といった用途が今後どこまで普及するのかは見通せない。関係者らは「15年間は十分な長さではない」と異口同音に懸念を示している。