北海道建設新聞社
2023/11/30
【北海道】道新産業創造機構がラピダス経済効果を試算/累計で最大18兆円
北海道経済連合会などでつくる北海道新産業創造機構(ANIC)が、半導体製造のラピダス(本社・東京)進出による経済効果を14年間累計で最大18兆8000億円と算出した。この数字はラピダスや関連産業へのヒアリング調査などを経ていない独自試算という。確たる根拠となる情報が少ない中で発表したのは、千歳周辺や道央圏だけでなく、全道に期待感を持ってもらう狙いがある。(経済産業部 吉村慎司)
「あくまでも当機構が設定した前提条件・想定値を元にした算出結果。前提次第で結果が大きく変わることにくれぐれも留意してもらいたい」。21日の記者会見で、ANIC理事長を兼任する藤井裕道経連会長はこう繰り返した。
試算担当者によれば、秘匿事項の多いラピダスや関連産業各社への事前ヒアリング、数字のすり合わせはやっていないという。公開資料や報道記事をベースに、これまでの半導体関連事業から相場を割り出して条件を設定。進出企業数や、そのうち何社が工場を建てるかなどを仮定した。
設備投資額に関しては、このところの建設資材や労務費の高騰を加味して大きめの数字とした。道路や港湾といった公共セクターによる経済効果は入れていないという。
半導体産業の先行地・九州では、台湾積体電路製造(TSMC)が進出する熊本県内の経済効果について、九州フィナンシャルグループが10年間で6兆8500億円とはじいた。ラピダスは工場1棟のシナリオでも14年間で10兆円強。半導体産業支援に当たる道幹部の一人は「大きな額が出てきてよかった。こうした試算はわれわれ行政にはできない」と話す。
藤井理事長は記者団に「試算は機構の活動に役立てるためのメルクマール(目印・目安)であると同時に、広く道民に経済効果をイメージしてもらうために公表した」と語った。道央圏から離れた地方ではラピダスへの期待感が薄いとされ、10兆円を超す効果を示すことで地方の空気を変えようとする意図が見える。
ただ、発表翌日の22日も「直接的な波及効果は少ないだろう」(中田伸也稚内商工会議所会頭)、「千歳方面に出向く余裕はない」(函館市内のゼネコン幹部)といった声が聞かれる。新たな巨大産業の恩恵を全道で感じられる日が来るか、まだ不透明だ。