北海道建設新聞社
2023/07/31
【北海道】ラピダス千歳進出で十勝の技能者流出懸念
十勝の経済界は、ラピダス(本社・東京)の次世代半導体工場建設による技術者流出を危惧している。帯広商工会議所の三井真専務理事は、6月27日の定例会見で「進出自体は本道にとって前向きなニュース。ただ、その悪影響を受けないよう準備する必要がある」と指摘。建設技能労働者の流出に関する調査を進めている。これまでも札幌圏域の大型工事に引き抜かれるケースがあり、人手不足が加速する可能性は高い。経済界は危機感を募らせる。
ラピダスが千歳市に計画する新工場建設には、多くの作業員が動員される見込みで、ピーク時で建築に2000人、設備に4000人を想定する。同社の小池淳義社長は、次世代半導体工場を軸にした北海道バレー構想案を打ち出し、苫小牧市、千歳市、札幌市、石狩市を結ぶ一帯をDX・GXの拠点とする狙いがある。
しかし、十勝の経済界は苦しい胸中を明かす。三井専務理事は「盛り上がる場所に人は集まる。しかし、それでは地方で必要な人材が確保できない」と指摘。管内では公共工事に加え、旧藤丸百貨店の建て替えや長崎屋帯広店の解体が計画されていて、技能者不在の影響は避けたいところだ。
危機感を抱く背景に、観光業界の人手不足を例に挙げる。人手不足となった要因は、新型コロナウイルス感染拡大だ。観光関係者によると、コロナ禍で宿泊者数が激減し、人件費を削減。他の業種や地域に流れた人材は、5類に移行しても戻らず、需要に供給が追いつかなくなった。建設業でも同様に入札の不調不落が危惧される。
三井専務理事は「若手の確保は特にエリア間での競争になりかねない。しかし、人はやはり渦の中心に行きたがる」と嘆く。
ラピダスはまさに「渦の中心」で、技能者が流れても不思議ではない。ある管内建設業者の社長は「ラピダスクラスになると、すでに水面下で引き込みがあっただろう。藤丸百貨店建て替えなどの大型事業が本格化するまでどう持ちこたえるかが鍵」と冷静にみる。
これまでも、札幌圏域の大型工事に技能者が流出しているという。十勝鋼製建具協会の加藤武志会長は「札幌は人口も建設事業も多く、技能者が足りていない」と話す。同社の進出により人材流出が加速する可能性がある。
帯広商工会議所は現状の把握に努める。野村文吾副会頭は「各地域に好影響が出るか不透明な部分もある。加えて、建設業者が地域からいなくなると、災害時の初動に不安が残る」と指摘した。
本道経済にとって、ラピダスの進出はポジティブな要素が強い。だが地方経済界は、手放しに喜べない現実がある。