小規模橋梁の老朽化対策 CFRPを緊張材に メンテフリーで人力施工も 斜面地に住宅が広がる本県の密集市街地や離島には、階段道や狭小な道に架かる小規模橋梁が多数存在している。これらの橋の多くは老朽化が進んでいるが、大型重機が進入できないなどの理由から架け替えが困難なものが少なくない。この状況に対応する新たな床版の研究が、長崎大学を中心に進められている。23日に行われた説明会・見学会から、百年床版≠ノよる小規模橋梁の上部工更新実装に向けた取り組みを紹介する。
長崎市道の小規模橋梁を見ると、928橋中371橋が橋長5b以下で全体の4割を占める。さらに、幅員2・5b以下の市道橋は76橋で、このうち50橋が5b以下となっている。市の担当者によると、これらの橋のほかに、いわゆる赤道(里道)に架かる小規模な橋が多数存在するが、実数は把握できていないという。
里道の橋梁は、▽谷あいや小規模な河川上など湿気のある場所に架かる▽地元住民が施工するなど、元々の施工が良くない▽工事がしにくい場所にあり、業者が施工を嫌がる▽通行量が少なくメンテナンスが行き届いていない―といった課題があり 早期な対策が必要なケースが多い。
そこで長崎大学では、長崎市、コンクリート二次製品製造の潟с}ウ(福岡市)とH.O.C梶i大村市)、炭素繊維複合材製造の東京製綱インターナショナル梶i東京都)、施工の株資ス工業(長崎市)からなる研究チームを組織。小規模橋梁での円滑な架け替えやメンテナンスのコスト縮減策に繋がる手法の開発を進めてきた。
この際、長崎市側が、▽小規模橋梁は空石積みの下部工が多く、さまざまな制約から今の基準に沿った橋台に作り替えることは難しいため上部工だけを替える=、地元住民が日常生活で利用しているため(解体・架設による)通行止めの期間をできるだけ短くする=、既設下部工を利用するため桁高を小さくする=\ことを要望したという。
研究チームでは、これらの課題や要望を踏まえ、炭素繊維複合材(CFRP)と高耐久コンクリートによるメンテナンスフリーの橋桁(百年床版)を開発。炭素繊維と熱硬化性樹脂をより合わせて成形したCFRPケーブルを緊張材に利用したプレストレストコンクリート(PC)床版で、版厚が薄く(100_)、スラブの重量も軽くなるため、既設下部工を活かして上部工のみの取り替えが可能。緊張材に耐食性・耐塩害性があることから、海に近いなど塩害環境下でもかぶり厚を変えずに耐久性を発揮。ひび割れが発生しても、緊張材が錆びないため補修の必要がなく、維持管理コストを大幅に低減可能といったメリットがある。
さらに、床版を幅25a程度に分割することで、人力による施工を可能とし、重機の乗り入れが困難な狭隘な場所の施工も実現。床版を架設する際には、既存の上部工撤去後に支承の位置を確認してから、床版を適切な長さ・角度にコンクリートカッターで切断することもできる。
2021年には、長崎市道の実橋(橋長3・6b、幅員1・62b)で試験施工を実施。現行のPCの設計法により曲げ性能を評価できることや、人力での施工性を確認した。
22年度には、佐世保市と新上五島町もメンバーに加え、(公社)土木学会の新技術の地域実装促進に関わる研究助成を受け、離島や密集市街地への実装に向けた研究を推進。この一環として行われた23日の説明会には、国を含む県下の道路管理者や建設コンサルタント・施工業者など50人近くが参加。
当日は、長崎大学工学部構造工学コースの山口浩平准教授はじめ、長崎市やヤマウの担当者の説明に続き、長崎市網場町内の里道に架かる無名橋(橋長3・8b、幅員1・25b)の架け替え工事現場に移動。桁を台車で運び、チェーンブロックを使った懸架吊りで架設する様子を見学した。
参加者からは、従来の鋼より線とCFRPケーブルとの付着強度や緊張時端部定着の違い、分割した桁を接着剤で一体化する現在の手法の有効性など、専門的な質問が出た。
山口准教授は、一般的なPC橋梁と同等かそれ以上の性能を有すると説明。ただ、今より大きな橋梁になった場合、「接着剤でどこまでいけるか。メカニカルなずれ止めの検討が必要」などと話し、関係者の助言を得ながら開発成果をさらに高めていく姿勢を示した。