横浜市教育委員会は、市立小・中学校の老朽化対策の基本方針を見直し、対象校を小・中学校全483校に拡大する。これまでは旧耐震基準で建設された小・中学校384校を、目標耐用年数である築70年に達するまでに建て替えるとしていたが、目標耐用年数を「70年以上」とし、建て替えの他、長寿命化改修と大規模リニューアルを老朽化対策の選択肢に加えた。2020〜90年度の事業期間で総事業費は1兆2000億円となり、単年度の事業費は約260億円と試算した。維持修繕などの保全費は別途、毎年度150億円を投じることになる。
3月9日に開いた23年第1回市会定例会のこども青少年・教育委員会で「横浜市立小・中学校施設の建替え等に関する基本方針(素案)」として報告した。
22年第4回定例会で示した見直しの方向性の内容に沿って素案を策定した。それによると、建て替えは、原則として築年数の古い学校を対象とし、浸水想定区域内にある、または校内の一部が土砂災害特別警戒区域に指定されているなど、防災対策の強化が必要な学校を優先する。
建て替えでは、公民連携を推進して、民間事業者のノウハウを積極的に活用する。まず、豊岡小学校(鶴見区)の複合化で公民連携手法の導入を検討する。
建物の省エネ基準は、ZEB Oriented相当とし、積極的に木造化・木質化を進める。
防災対応では、浸水想定区域内で一定以上の浸水が想定されている学校は、体育館や電気室、職員室を2階以上に設置するなどして対策する。校内の一部が土地災害特別警戒区域に指定されている学校は、斜面地対策を実施するとともに、施設の配置を工夫する。
近隣に民間スイミングスクールなどがある学校については、学校プールを更新・修繕せず水泳授業の外部委託化を検討し、事業費の縮減を図る。
〜建替困難校を長寿命化〜
一方、建て替えが困難な学校では、長寿命化改修などを検討し、各校の状況に応じて施設を継続して使用できるようにする。建て替えるには敷地が狭いなどの課題整理が必要な学校では10年程度の長寿命化を、児童生徒数の推移の見通しが難しい学校や、全体を再編せず最古の棟のみで老朽化対策が必要な場合は10〜30年程度の長寿命化を考える。周辺道路が狭いなどの理由で建て替えが困難な学校については、30年以上の使用を想定した長寿命化を実施する。10年以上の長寿命化では、大規模リニューアルも検討する。
21年度に中村小と蒔田小、桜台小の3校で「耐用年数評価」を実施し、築70年に近い建物でも適切な維持保全を行えば、数10年使用できることを確認している。本年度は間門小と金沢高等学校、東戸塚小、戸塚中を評価し、23年度以降は生麦中や港南中などで実施する予定でいる。評価を実施した学校については、「学校ごとの個別対応方針」を作成していく。
〜65年度までの修繕費は1・5兆
市は17年度に「横浜市立小・中学校施設の建て替えに関する基本方針」を策定、これまでの5年間に22校の小・中学校の建て替えを進めてきた。基本方針を見直すこととしたのは、▽文部科学省が学校施設の老朽化対策で長寿命化改修を推進したこと▽建て替えが物理的に困難な学校があること▽市が策定した「財政ビジョン」で公共施設の縮減を掲げたこと―の三つが要因。
このうち、公共施設の縮減について、基本方針素案では、65年度時点の学校施設の総延べ床面積は、21年度末から12%の縮減になり、修繕費などを含む保全更新コストは、約1兆5550億円で、維持修繕費は毎年度150億円に上ると試算している。
今後、4月に基本方針素案の市民意見を募集し、5月に結果を反映した原案をまとめて第2回市会定例会委員会で報告。6月に成案を公表する。
提供:建通新聞社