日本建築家協会(JIA)北陸支部石川地域会による建築設計事務所などの若手世代を対象にした連続セミナー「金沢のチカラ〜さまざまな視点で読み解く金沢の魅力〜」の第2回目が22日、金沢職人大学校で開かれ、谷口吉郎・吉生記念金沢建築館長の水野一郎氏が雪国の知恵袋などをテーマに講演した。
水野氏はまず、ひがし茶屋街が「約200年前から建築と街並みのルールを継承した巨大な一軒の木造建築として捉えることができる。保存して時代に合った再利用をしようということで一旦は反対もあった重伝建の指定に動いた」と述べ、歴史的な街並みの高山や倉敷などは「1階のファサードがほとんどお土産屋になっているが、金沢も油断するとそんな風になってしまう。商売よりも木虫籠(きむすこ)を守り、茶屋街の美しさを見せることが大事だという思いが今も生きている」と強調した。
石川四高記念文化交流館や県立歴史博物館などには「堅牢なレンガを焼き、積み上げた地元職人の技術は尊敬に値する。こういう人たちによって100年以上、金沢の建築文化が支えられてきた」とし、三尖塔の紫錦台中学校(現金沢くらしの博物館)には「地元の木工、大工、板金、塗装、屋根工事の職人たちが材料を吟味しながら作り上げた。そうした職人のチカラでできている」と称えた。
国立工芸館や県立歴史博物館の誕生劇では「壊される運命にあった建物を石川県がいつか、何かに使えるだろうと大事にストックしていた。江戸時代の建築だけでなく、明治も大事にしよう、残そうというそのチカラが素晴らしい。面白い」と語った。
雪国の知恵袋をテーマにした講演では、「金沢は年間降雨量が日本の県庁所在地の中で一番。雪も雨も多く、世界と比べても桁違い。これが建築にどう影響を及ぼすか。屋根雪をどう処理するか。平入りで道路や中庭に落とすのか。妻入りだと隣地に落とさざるを得ない」と述べながら、設計担当をした『野々市の家』や『寺地新の家』では、「アルミサッシやガラスなどで雪囲いを設計し、雪のない庭をつくった。大平洋側であれば贅沢品かも知れないが、北陸では利用しやすい快適空間になる。雪は豊かさを獲得する武器にもなる」と語った。
木虫籠を生み出す道楽や価値観重要
フリートークでは参加者から「本日の講演を聞き、マイナスのイメージがある雪をポジティブに捉え、風土として受け止め、建築に生かすことが大切だと思った」との感想に、水野氏は「金沢駅もてなしドームの曲面に雪止めがある。下から眺めると、雪がある所と無い所でガラス全体が市松模様のように見えてくる。その瞬間がもの凄くきれい」と述べた。
「雨や雪、雪囲い、高床といった雪対策の設計に生かすため、普段、心がけていることはありますか」との問いに、水野氏は「窓から外を眺め、雪がどう積もるかを見ていると、長谷川等伯や狩野元信などの絵画の通りだと驚く。雪が降る様をじっと見ていられるかが勝負。雨だれをたどり、これを何とか克服したいと思う」などと答えた。
一方、「間口が狭い家で屋根を平入りにすると駐車場のクルマに雪が落ちる。でも、片流れにすると建築的に美しいのか悩んでしまう」との質問に、水野氏は「ここ20年間ぐらいの降雪量を見ていると、陸屋根もあるのかも知れない。選択肢の一つ。みんなで格好良く、雪も処理できる方法を日常的に考えていくことが大切」とアドバイスした。
「インターナショナルなモダニズムが金沢的な材料の選び方、素材のこだわりを経由した時に全く違った形に変質する。金沢の目に見えないチカラは何なのか」との質問に、水野氏は「普請道楽という言葉がある。家は3回建てないといい家にならない。江戸時代、道楽が文化を豊かにした。明治の近代化で合理的、効率的、経済的が重視され、この2つの価値観をどう捉えていくか」と答えた。
さらに「中国の都市は北京も上海もすべてニューヨークのようになってしまい、中国3000年のまちづくりはどうなったのかという指摘もある。どうして世界中、同じにならなければいけないのか。効率的、合理的でいかに豊かにできるか。雨や雪の良さを見つけていくチカラがないといけない。そういうチカラを建築界が持ちたいし、それを支えているのは建築の材料や技術であり、今後、鉄やガラス、アルミ、ステンレス、プラスチックでどういうものを生み出していけるのか。金沢は木虫籠という凄いものを生み出した」と締め括った。