熊野建設(鯖江市落井町36―23)の熊野佳彦氏が2022年秋の黄綬褒章を受章した。建物鳶工として卓越した技能をもち、業務に精励した業績が認められた。昨年度の「現代の名工」に続く今回の受章について「嬉しさと、周囲の人に感謝しかない」と謙虚に受け止めつつ、さらなる精進を目指すと語る。決意に込められた、これまでの軌跡と、今後の挑戦について聞いた。
「曳家は建造物をそのままの形で継承しなければならず、失敗は許されない」と真剣な表情で話す。施工技術の刷新に取り組み「KPR工法」を考案、4件の特許を取得した。基礎を積み重ねて開発した唯一無二の技術に胸を張る。
施工するのは、神社仏閣など文化財や一般家屋などさまざま。独自技術によって、壁や床などを撤去することなく、建物を移動する。「曳家の仕事は段取り九分。一つひとつの工程が緊張の連続」と話す。
住宅は生活した状態で施工するのが熊野流だ。長年の経験をもとに、音で工程の善し悪しを判断する。「曳く時に家がミシミシと鳴くと、安定している状態」と熊野さん。完了した時に依頼主からの「すごいね」「ありがとう」という言葉が、これまでの道のりを続ける力になってきた。
周囲の関係者にも支えてもらった。「仕事が評価されるにつれ、さまざまな方々に、ありがたいと思うようになった」。とりわけ妻の明花さんには、感謝の気持ちでいっぱいだと笑顔を見せる。
国指定登録有形文化財で、石川県輪島市の総持寺祖院・大祖堂の復興工事など、全国の神社仏閣や文化財の保護にも貢献する。『木造なら福井の熊野』と評され、各地の企業から施工についての問い合せが寄せられる。そんな時、熊野さんは自らの技法や考えを惜しみなく伝えるのだという。
14年から、福井県鳶土工業協同組合主催の技能講習会の指導員を務め、16年には専務理事に就任した。「自分の経験を伝えながら、技術の継承に努めたい」と、多くの建築とび工の後進技能者の育成にも力を注ぐ。
くまの・よしひこ
58歳。2014年10月、熊野建設の代表取締役に就任。16年2月、福井県鳶土工業協同組合・専務理事、21年5月、福井県技能士会連合会・理事に就任、現在に至る。21年には「現代の名工」厚生労働大臣表彰。