「公共事業使い残し4兆円」。8月中旬、一般紙にこんな見出しの記事が並んだ。公共事業関係予算の繰越額に目を向けた内容だったが、「的外れな論調」と建設業界から厳しい声が寄せられている。そもそも単年度主義での予算執行は、工事の平準化を妨げる一因となっており、年度またぎの必要性は政府の骨太の方針にも明記されている状況。決して予算が過剰なわけではなく、柔軟な執行が図られていることの裏付けとして受け止めるべきだ。
(田原謙一・常務取締役(兼)報道部長)
■語気強める建設業界
一般紙等で報じられた内容はこうだ。
「公共事業関係費の繰越額は20年度が4兆6937億円、21年度が4兆374億円。同関係費のうちそれぞれ35.4%、31.6%が使われなかった」。
この数字から引き出されたのは「現場の引き受け能力を超えた過大な予算になっているのではないか」という論調。これには建設業界も黙ってはいなかった。
繰越額が近年増加してきた背景について、全国建設業協会はこう訴える。
「本来、翌年度の当初予算で計上すべき国土強靭化予算を年末の補正予算で計上したことによるもの。それぞれ15カ月予算、16カ月予算として、もともと繰り越して執行することを前提にしており、予算の使い残しではない」。
報道にあった「人手不足による工事の引き受け能力」も疑問が残る。確かに、建設現場の人手不足はよく叫ばれているが、もしこれが繰越額の増加とリンクするのであれば、相当な数で不調・不落が発生してもおかしくない。しかし、その件数は増加しておらず、予算は順調に消化できている。業界団体からの「施工余力が足りない状況ではない」との反論もうなずける。
■弊害生んだ単年度主義
予算繰越の必要性は、政府の「骨太の方針2022」でもこう明記されている。
「年度末の予算消化などの予算単年度主義に起因する弊害について、年度を跨(また)ぐ予算執行が可能となるよう、柔軟かつ適切に対応する」。
公共事業では、新・担い手三法で発注者責務≠ニして示した「施工時期の平準化」がこの方針とつながってくる。近年、債務負担行為の活用や早期の繰越承認が進み、閑散期とされていた4〜5月の工事量が確保できるようになった。
つまり、平準化の実現は「翌年度への繰越工事をどれだけ増やせるか」にかかっている。執行比率の理想は「3(前繰):4(現年):3(翌繰)」との見方もあり、週休2日などの働き方改革を進める上でも繁閑差の解消は欠かせない。
県建設業協会の藤田護会長(藤田建設興業)は「何とも的外れな論調で、誤解を招きかねない。少なくとも、会員企業や建設業に従事する人たちは(繰越の意義や必要性を)正確に理解しておく必要がある」と語気を強める。
県内業界からも厳しい声が相次いでいる今回の報道。そこには、地域の雇用を支えながらインフラ整備や災害対応に尽力する建設業の使命感がある。