「最近、体を使わない仕事がどんどん増えてきていますが、建築板金のようなものづくりの現場はとても楽しいですよ」―。福村板金(加賀市黒崎町、福村貴司社長)の福村みどりさんは、女性職人として充実した毎日を送っている。
2017年、夫で同社社長の貴司さんが独立開業し、事務や経理を手伝っていたが、次第に現場に顔を出すことが増えていった。そんな折、石川県板金工業組合の青年部長だった貴司さんの勧めで19年春、第41回全国建築板金競技大会の建築技術の部(NYAC)に出場することになった。図面制作の競技とはいえ、初心者の女性がエントリーすることはとても珍しく、みどりさんは「建築板金をより深く知るチャンスだと覚悟を決め、毎日夜遅くまで勉強しました。その甲斐があって6位入賞を果たすことができました」と振り返る。初心者の大会入賞は全国的な話題に上り、その後、専門校に通って資格を取得。現在、2級建築板金技能士として活躍中だ。
父に加え、母も建築板金の世界にのめり込んでいく様子を見ていた娘の愛理さん。大学卒業後、家業を手伝う傍ら、みどりさんが専門校を卒業した翌年、同じ学び舎の門をくぐる格好に。大学で経営学を専攻していた愛理さんだが、「母の影響もあり、挑戦してみることにしました。専門校では同年代の若者や年長者と一緒に楽しく勉強しています」とはにかむ。華奢な25歳が職人デビューする日もそう遠くない。
奇しくも妻と娘が建築板金の世界に入ったことについて、貴司さんは「妻は当初、現場仕事を眺めているだけだったが、実際にやっていくうちに楽しさに目覚めたようです。集中力もあり、屋根の上も平気なんです。愛理はちっちゃな手で四苦八苦しながら一生懸命がんばっていて、頼もしい限りです。夕食時は3人で板金仕事の話題で盛り上がります」と笑う。
自身は1級技能士、基幹技能者として業界全体のことも気にかかる立場だ。一連の金沢城公園復元整備事業などで十分に腕を奮う機会を得た建築板金業界だが、「石川県から全国に誇れる職人をどんどん輩出したい。次世代の人材を育てることに全力を注ぎたい」と意気込む。