無垢製材あらわし中高層建築物着工 木造中高層でモデルケース確立、全国へ発信 建築基準法の改正による耐火構造としなければならない木造建築物≠フ基準の大幅緩和により、大規模な木造建築物の事業化が進む中、壱岐で木造4階建て無垢製材あらわしビル『睦モクヨンビル』の建設が始まった。事業主体である壱岐市の建築設計事務所許r設計コンサルタントの松本隆之氏によると、無垢製材あらわしの4階建ては日本初だという。
都市部で進む大規模木造建築物は、防火規定や構造上の面から、大断面集成材や不燃化処理木材、ハイブリッド木材などを使用する必要があり、従来のS造やRC造と比べて建設費が割高になっている。さらに、これらの工業製品木材(エンジニアリングウッド) は、生産過程でエネルギーを使用するため、一般流通材(住宅基準断面寸法の無垢製材)と比べると、CO2削減の効果は大幅に低くなる。
睦設計では、自社事務所に隣接する湯川温泉駐車場前の敷地(1801・89平方b)の立地条件(防火地域・準防火地域・建基法22条指定区域のいずれにも該当しない。建築物の高さと同じだけの空地を全方向に確保)を最大限に生かし、一般に流通する無垢製材を使った4階建木造ビルの建設を計画。6月20日付で建築確認申請の交付を受け、木材を耐火被覆などによって耐火構造とすることなく、無垢の構造材をあらわしで使用した日本初のビルを着工した。
同ビルには、同社事務所機能を移転するとともに、オープンカフェや民泊施設といった同社の新分野展開機能も併設。建築面積96・71平方b、延べ床面積292・05平方b、高さ14・65bで、中央に吹抜け空間を設ける。1階部分は、吹抜け下のサロンを誰もが使用可能なフリースペースとしたオープンカフェ、2階が民泊施設(3室)、3階が事務所機能、4階が将来拡張用の居室スペースとする計画。土台・柱はすべて国産材の無垢あらわし、横架材も米マツの無垢製材を使用し、階段室にはCLT工法を併用。階高・スパンなどの寸法は一般流通材に基づき決定するとともに、耐力壁・床の構造用合板を仕上げとしてコストダウンを実現している。
<貴重な現場経験・技術継承へ島内の大工公募>
施設の建築意匠・設備設計は睦設計が担当、構造設計は竃リ構堂、建築主体工事は且R内組、電気設備工事は渇。清商会、機械設備工事は挙高水道工事店と、構造設計以外は、島内の業者が担当。さらに、日本建築家協会長崎地域会副会長で長崎県木造建築アドバイザーも務める松本隆之氏は「貴重な木造4階建ての現場を壱岐の将来を担う若い有望な大工に経験してもらいたい」との思いから睦・モクヨン大工塾≠ニして、施工に携わることを希望する大工を島内から公募(経験年数が10年以上で50歳未満の3名が応募)。島内の熟練大工を棟梁に迎え、技能の継承していく方針だ。
松本氏は、今回の事業で、▽消費地に近い山で生産された間伐材も含めた森のサイクル▽山師の復権▽各種林業経済の好循環―を生み出す具体的な方法を体現。さらに、『睦モクヨンビル』を、ローコストで性能の確保された中高層木造建築物のモデルケースとして確立し、全国へ発信することを目指している。
併せて、隣接する壱岐湯川温泉・壱岐牛和牛弦・壱州本陣・壱岐文化村といった既存施設と一体となり、壱岐島内初となるエリアブランドを立ち上げ、同ビルを、その情報発信源となる中核施設に位置付け、壱岐市観光の起爆剤にしたい考えだ。
同ビルの完成は2023年1月、事業の開始は同年4月を予定している。