京都市は28日、名勝無鄰菴庭園保存活用計画案を文化財公開施設保存活用検討委員会に示した。令和4年3月末に計画書を完成させ、その後、6月以降に文化庁認定を目指す。
文化財保護法が平成30年6月に改正され、都道府県は文化財の保存・活用に関する総合的な施策の大綱を策定できることとなり、市町村は地域計画、個々の文化財は保存活用計画(所有者・市町村等による)を策定する。
京都市左京区南禅寺草川町の名勝無鄰菴庭園については、保存活用計画を策定し、保存活用に向け本格修理工事を実施する計画。
短期的には耐震補強を目的に母屋、茶室、洋館及び管理人住居の保存修理工事を進める。内外観の変化を最小限とし、可逆性に配慮した計画とする。管理人住居は部材の劣化が著しいことから、利用可能な既存部材を最大限再利用した復原による計画とする。土塀、板塀等も腐朽が進んでいることから、安全性確保のため修理等を行う。
令和2年度から2ヵ年で実施の耐震診断調査の結果を踏まえ、文化財的価値を損なうことなく、不特定多数の利用のある公開施設としての安全性を確保するため、より実情に近い耐震性評価を行い、適切な耐震補強をする必要があることが判明したことから、令和6年度以降に実施予定の基本設計・実施設計に着手するまでに、無鄰菴の木造建築物の「非破壊による強度調査」を実施する予定。
本格修理工事に向けた全体スケジュール案によると、令和2・3年度に保存活用計画策定、5年度に整備計画策定(4年度は準備期間)、令和6年度以降に基本設計・実施設計を行い、令和7・8年度に本格修理工事を行う予定。
工程計画案によると、敷地北西角の管理人棟を解体(部材は場外で保管)[1〜3の約3ヵ月]して資材置場として利用する。休館した上で、母屋・茶室改修工事[4〜13の約10ヵ月]と、塀の修繕[約3ヵ月]を進める。母屋・茶室改修工事の完了後、洋館改修工事[13〜19の約7ヵ月]を行い、管理人棟の復原工事[19〜24ヵ月の約6ヵ月]を実施する。工期は約2年[約24ヵ月]を想定する。母屋・茶室改修工事中は休館する。
母屋改修工事はT・U・Vの3工区(それぞれ揚家、掘削、劣化部修繕、べた基礎築造、ジャッキダウン)に分け実施し、茶室改修工事は揚家、劣化部修繕、沈化調整錫PL挿入、ジャッキダウンを実施する予定。
洋館改修工事は素屋根設置(折板屋根、メッシュシート、避雷針含め覆う)、レンガ補強工事、鉄骨補強工事、復旧工事を予定。
管理人棟の復原工事は掘削、べた基礎築造、上屋復元を行う予定。
なお名勝無鄰菴庭園保存活用計画策定業務は中根庭園研究所(京都市右京区)、京都市市有建築物耐震診断業務委託ただし、名勝無鄰菴庭園の建造物に係る耐震診断及び概略補強計画策定業務は日建設計大阪オフィス(大阪市中央区)、無鄰菴本格修理事業用地における地質調査は近畿地質センター(京都市伏見区)がそれぞれ担当。
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無鄰菴は、明治27年〜28年頃にかけて築造された、明治の元勲、山県有朋の京都の別邸。昭和16年に山県家並びに無鄰菴保存会から京都市へ寄贈され、昭和26年には国の名勝指定を受けた。
主な建物として、▽母屋(W造平屋建一部2階建、延376・85u)▽茶室(W造平屋建、38・67u)▽管理人棟(W造平屋建、35・04u)▽洋館(レンガ造一部W造2階建、延155・36u)のほか、管理人住居(W造平屋建)がある。