「エッセンシャルワーカー」。コロナ禍で耳にする機会が増えた言葉だ。日常生活に欠かせない仕事に携わる者を意味し、新型コロナウイルスワクチンの優先接種の対象となったことでも話題を呼んだ。医療や福祉、教育機関等と同じく、建設産業も同様に位置付けられてしかるべき存在だが、今回その対象とした自治体はごくわずか。災害時の対応や地域のインフラを守る観点からも、業界が社会に果たしている役割をもっと認識してもらう必要がある。
(田原謙一・常務取締役(兼)報道部長)
「建設業界をはじめ、災害時に最前線で対応に当たる方々は社会に欠かせない存在。まさにエッセンシャルワーカーである」。
6月中旬、群馬県の山本一太知事は定例会見でこう切り出した。建設業の従事者をエッセンシャルワーカーとして位置付け、全国で初めてワクチン優先接種の対象に追加。「台風や豪雨等で災害対応業務の重要性が増す中、県民の安全と安心を守るためにも(建設業界の)接種を早期に進めていくべき」との考え方だ。
これを受け、群馬県建設業協会(青柳剛会長)では7月から、初弾の優先接種を5000人規模でスタートした。「地方建設業にとって画期的な一歩」と全国から注目を集めたものの、今のところ本県を含め、同様の方針を示した都道府県が見えないのが残念である。
一方、企業レベルでの職域接種は少しずつ動きが出始めている。県内業界では先日、南生建設(川畑智洋社長、鹿児島市)が1回目の接種を1000人規模で行い、森建設(森義大社長、鹿屋市)も2000人規模での実施を予定。ただ、職域接種の場合は1000人以上の人数確保に加え、会場や医療従事者、運営スタッフまで自前で確保しなければならない。「(グループ企業等を有する)相応の企業規模でなければ、対応は難しいのでは」といった声が目立つのが実情だ。
■従事者の使命感にも
とはいえ、ここで伝えたいのは接種云々の話ではない。群馬県の例で触れたように、建設業界が「日常生活に必要不可欠な存在としてどう位置付けられているか」といった点である。
台風シーズンを迎え、地域建設業は今後いつ起こるか分からない災害に備えておく必要がある。各団体が県や市町村と災害協定を結んでいることも考えると、今回のワクチン接種は医療や福祉、教育機関等と同様に優先枠に入ってもおかしくない存在と受け取れる。
行政が建設業をエッセンシャルワーカーとして位置付けることは、社会からの認知度はもとより、従事者の誇りや使命感につながる。こうした側面から理解を広げていくことも、将来の担い手確保を進めていく上では欠かせない。