近畿地方整備局は、近畿ブロックの新たな広域道路交通ビジョン・計画を策定する。
物流上重要な道路輸送網として国土交通大臣が指定する「重要物流道路」制度を契機に、国土交通省は、地域の将来像等を踏まえ、広域的な道路交通の今後の方向性を定める新広域道路交通ビジョンを策定することとしており、更にビジョンを踏まえ、概ね20〜30年間の中長期的な視点で検討を進め、新広域道路交通計画を策定する。
近畿地方整備局は7日、社会資本整備審議会道路分科会近畿地方小委員会(委員長・小林潔司京都大学名誉教授)に近畿ブロックのビジョン案・計画案を示した。
近畿ブロックの新広域道路交通ビジョン案によると、近畿の目指すべき姿として(1)アジアのゲートウェイを担い、我が国の成長エンジンとなる圏域(2)日本の歴史・伝統文化が集積し、世界を魅了し続ける圏域(3)快適で豊かに生き生きと暮らせる圏域(4)暮らし・産業を守る災害に強い安全・安心圏域(5)人と自然が共生する持続可能な世界的環境先進圏域を掲げた。
広域的な交通の課題として、道路ネットワークの整備の遅れによる渋滞の慢性化、港湾ではアジア諸港との競争が激化する中での阪神港への寄港便数の減少などを挙げ、平常時は府県を跨ぐ都市圏内の拠点間連絡を強化するための広域道路ネットワークが求められ、災害時は直轄国道における台風、豪雨、豪雪に伴う規制、代替路がない区間での通行規制に伴うヒト・モノの移動の制限、南海トラフ地震による甚大な被害が想定される紀南地域において国道42号が遮断されることから、その代替路となる紀勢線の整備を挙げた。
広域的な交通の取組について、@ネットワーク機能の強化による対流促進(○国内外との対流促進(▽高速道路ネットワークのミッシングリンクの解消を図りつつ、環状道路や空港・港湾へのアクセス道路の整備を推進▽北陸新幹線やリニア中央新幹線等との連携)○日本海側および太平洋側の活用(▽日本海側・太平洋側諸港と道路ネットワークとの接続を強化))A広域観光・国際観光の推進(○歴史遺産、自然観光資源のネットワーク広域圏の形成(▽近畿に広く分布する観光資源を交通ネットワークで結ぶ)○旅行者の移動環境の円滑化、広域観光の実現(▽広域観光の拠点などにおける大型バスターミナルなどの整備▽さらなる観光戦略を検討するために、ビッグデータの集積と分析を進める))B都市環境の形成と地方都市の維持・再生(○地方都市の再生(▽TDM(交通需要マネジメント)の推進等により渋滞解消を図るとともに、地域公共交通の確保・維持・改善等により、円滑な移動を確保▽府県を越えた広域道路ネットワークの整備など、地方都市間の連携強化、連携中枢都市圏等の形成、京阪神都市圏とのつながりの強化))C南海トラフ巨大地震等への備え(○災害に強い物流ネットワークの構築(▽事前通行規制区間の解除▽災害時には「命の道」となる高速道路ネットワークの構築)○広域的な防災機能強化を図る「道の駅」の整備(▽「道の駅」等、既存施設を防災拠点として最大限活用▽特に「道の駅」について、地域の復旧・復興の拠点として、対策を強化)○老朽化対策の的確かつ着実な実施(▽予防保全型のメンテナンスの強化、DX(デジタル・トランスフォーメーション)の推進による老朽化対策の的確かつ着実な実施))DICTや自動運転技術の活用(○防災対策や公共施設の効率的な活用に進歩するICTを活用する等、技術革新を我々の暮らしや社会の向上に役立てる○自動運転システムの実用化に向けた取組(▽自動運転システムは、今後10〜20年の間に急速に普及▽ルールの整備や実証実験を進め、実用化に向けた取組))を盛り込んだ。
広域的な道路交通の基本方針(ビジョン)によると、広域道路ネットワークについては「日本海・太平洋の2面利用による利点を活かしながら、物流・産業・観光拠点間の連携強化や対流促進に寄与する広域ネットワークの形成を図るとともに、我が国の国際交通拠点となる空港・港湾とのアクセス強化や京阪神都市圏の環状連絡機能を強化する。また南海トラフ巨大地震等に備えるべく、多重性や代替性を備えた災害に強い広域ネットワークを構築する」を掲げ、@圏域内外・地域・国内外との対流を促進するための「基幹道路ネットワークの形成」(◇国土軸、環状・放射道路、日本海側と太平洋側を連携する道路と重ねながら、日本海・太平洋の2面活用など、圏域内外・地域・国内外との対流を促進する重層的かつ強靭な広域道路ネットワークの整備を推進◇日本有数の大渋滞を抱える京阪神圏の交通問題を解消し、地域の自立的発展や地域間の交流・連携を支え、我が国を代表する歴史・文化資産が集中する近畿の強みを活かすための広域道路ネットワークの整備を推進)Aヒト・モノの流れを確実に行うための「基幹道路ネットワークの強化」(◇京阪神都市圏の交通円滑化に寄与する環状道路の整備や、ネットワークの多重化が不十分といった課題を抱える近畿北部地域、紀伊半島地域において、ミッシングリンクの解消、暫定2車線区間の4車線化、ダブルネットワーク化を推進)B成長力を近畿全体に行き渡らせるための「基幹道路ネットワーク間の連携強化」(◇基幹道路ネットワーク間を連絡する広域道路の整備によって、基幹道路ネットワークを利用したルートの多重性を確保し、効率的な物流ネットワークの強化や、物流の生産性を向上)C我が国の国際競争力の維持・強化を図るための「交通拠点へのアクセス確保」(◇我が国で唯一、大都市圏の中に3つの空港が存在し、また国際コンテナ戦略港湾である阪神港を有するといった高いポテンシャルを活かし、京阪神都市圏の環状連絡機能を強化することで、より一層、人流・物流を活発化させ、アジアのゲートウェイとして近畿の経済・産業を活性化させるとともに、我が国の国際競争力の維持・強化を図るため、阪神港や関西国際空港等、国際交通拠点と基幹道路ネットワークとのアクセスを強化)D安定した物流・人流を確保するための「災害に強い広域道路ネットワークの構築」(◇南海トラフ巨大地震等から人々の財産を守り、地区の潰滅的な被害を防ぐため、災害時には「命の道」となる道路の整備を推進し、緊急物資の集積拠点となる太平洋側および日本海側の港湾の活用を見据えた機能強化により、応急対策、復旧対策のための多重性、代替性を備えた輸送ルートを確保◇日本海側と太平洋側の港湾の連携を平時から強化し、広域道路の多重ネットワークを構築することで、国土を強靭化するための災害に強い広域道路ネットワークを構築)を設定。
交通・防災拠点については、@交通拠点におけるモーダルコネクトの強化(▽モーダルコネクト(交通モード間連携)の強化に向けた道路空間の再編や集約型の公共交通ターミナルの整備を促進▽バリアフリー化・ユニバーサルデザイン化、MaaSなどにより、乗り継ぎの円滑化を図るとともに、安全・安心で快適な歩行空間を創出)A道の駅など既存施設の防災機能の強化(▽災害時の物資輸送や、避難、災害情報の集約・発信等の主要な拠点となる「道の駅」等の既存施設について、ハード・ソフトを含めた防災機能を強化▽特に「道の駅」については、防災拠点化、市町村との役割分担、防災設備・防災機能の付加等を推進し、地域の復旧・復興の拠点として、広域的な防災機能強化を図る「道の駅」を整備)B物流拠点の促進(▽レベル4自動運転トラックやその隊列走行のための隊列形成・分離スペースを確保するため、スマートIC・民間直結スマートIC等を促進)を設定。
ICT交通マネジメントについては、@都市部における交通需要マネジメント(▽渋滞対策や生活環境対策として、ICT・AI等の革新的な技術を活用した交通需要をマネジメントするための検討を推進)A自動運転サービスの社会実装(▽人口減少と高齢化が進行する中、人流・物流を確保するため、自動運転サービスの社会実装▽ETC2・0と民間保有データとの相互利用や他の交通モードのデータとの組み合わせから、交通安全性の向上や効率的な移動を促進)BAIを用いた災害予測の検討(▽広域的な道路ネットワークを中心として、平常時や災害時を含めたデータ収集や利活用を強化)CICTを活用したインフラ支援(▽物流効率化のための自動運転・隊列走行、道路交通情報の充実)D新たな道路施策や交通マネジメントを推進するための検討体制を強化(▽地域道路経済戦略研究会近畿地方研究会と連携・協力しながら、ICTを活用した新たな道路施策や交通マネジメントを推進するための検討体制を強化)を設定。
新ビジョンを踏まえ、新広域道路交通計画(広域道路ネットワーク計画)、(交通・防災拠点計画)、(ICT交通マネジメント計画)(概ね20〜30年間を対象)を策定する。
新広域道路交通計画案によると、近畿ブロックにおける広域道路ネットワーク計画の拠点の設定では、計画で選定する基幹道路(高規格道路および一般広域道路)を検討するうえで、連絡すべき拠点の設定において、「都市」は京滋関係で京都市、福知山市、舞鶴市、宇治市、宮津市、亀岡市、大津市、彦根市、長浜市、近江八幡市、草津市、守山市、栗東市、高島市、東近江市、「空港」は関西国際空港、大阪国際空港、神戸空港、南紀白浜空港、「港湾」は大阪港、神戸港、堺泉北港、姫路港、和歌山下津港、敦賀港、舞鶴港、阪南港、尼崎西宮芦屋港、東播磨港、日高港、福井港、「駅」は米原駅、京都駅、新大阪駅、新神戸駅、西明石駅、姫路駅、相生駅、神戸三宮駅と設定した。
7月開催予定の近畿地区幹線道路協議会で新ビジョン・新計画を公表する。計画の中から、投資の規模を勘案して選定し、「重要物流道路」の追加指定を行う。