日本工業経済新聞社(群馬)
2021/06/18
【群馬】県内自治体の発注見通し公表状況調査
公共工事の発注者は、法令で発注見通しを公表する義務があり、その内容は企業活動の大きな指針となる。公共工事を担う企業が1年間の経営方針を固める上で、欠かすことができない発注見通しについて、県内の公表状況および内容を調査した。公共工事を発注する国、県、市町村のうち、発注見通しをまとめていない自治体が2町村、限定的な公表となっている自治体が2村だった。公表する内容は各自治体に委ねられており、自治体により項目に差異が見られる。
発注見通しは、各自治体が予定する工事の内容や場所、入札方式、発注時期などをまとめたもの。公共工事を事業の中心に据えている企業にとって、1年間の活動を定めるための指針であり、非常に重要な存在となっている。元請企業だけでなく、下請け企業や資材関連企業なども同様に、発注見通しを参考に事業計画を練っている。
公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律(入契法)では「地方公共団体の長は、政令で定めるところにより、毎年度、当該年度の公共工事の発注の見通しに関する事項で政令に定めるものを公表しなければならない(第7条)」としている。公共事業の発注者にとって発注見通しの公表は、法令で定められた義務に当たる。
委託業務の見通しについては明言されておらず、現状で公表しているのは国、県、前橋市、中之条町、昭和村のみとなっている。
発注見通しで公表すべき内容は、明確に定められていない。各自治体の判断に委ねられている状況。
多くの自治体が案件名や工事場所のほか◇入札方式◇工種◇工期◇発注予定時期◇工事概要◇担当部署−を公表項目に設定している。うち、工期、工事概要は全ての自治体が公表。国のみが工事の規模を金額ベースで記載している。
現時点で発注見通しをまとめていない自治体は上野村と神流町の2自治体。いずれも担当課の人手不足などを理由に、作成に至っていないという。22年度の作成・公表に向けて内部で調整している。
公表方法については、多くの自治体がそれぞれのホームページを活用している。県、前橋市、高崎市、館林市、中之条町が「ぐんま電子入札共同システム」を併用。嬬恋村は同システムに加入しているものの、発注見通しは村役場で閲覧する必要がある。国は入札情報サービスで各出先事務所ごとの発注情報を提供している。
榛東村は250万円以上の工事予定概要調書を発注見通しと位置付け、5月の村広報誌に掲載している。
発注見通しは文字通り「見通し」となっているため、公表されている内容の変更や、記載されている工事自体が実施されない場合も少なくない。年度当初時点において、1年間の発注スケジュールを完璧に示すことは不可能とも言えるだろう。補助金の交付状況や用地買収の進捗、災害対応など不確定要素が多いためだ。
安定的に正確な情報を提供するための手法としては、定期的な見直しが有効だろう。上半期と下半期、または四半期ごとに見直しを行う自治体も多い。
全国に目を向けると、月1回のペース、または補助金が交付決定された時点で、追加・見直しを行っている自治体もある。また、注目度が高まりつつあるICT活用や週休2日制などの公表項目に設けている自治体も増えてきている。
情報提供の内容や手法については、現状を踏まえた形式が常に求められる。
発注見通しの公表項目について、それぞれの状況をまとめた。表は6月現在で公表している発注見通しを参照。入札方式と発注予定時期の項目で、記載方法が分かれる結果となった。時期は四半期と月で分かれる。入札方式は、各自治体で設定する入札の制度によって異なる。全自治体が工事場所、工事概要、工期を記載。概要は自治体の中でも、担当する部署によって、差が生じている。
【案件名】
施設名や路線名を入れるなど、一目で内容が想像できる案件名となっていることが多い。また、社会資本整備総合交付金事業や小規模農村整備事業など、財源となる事業名を記している案件も目立った。その反面、一部の案件で路線名や施工地区などの記載がなく、道路改良工事や下水道管渠築造工事などのみとしている場合もある。他工事との差別化を図る努力が求められる。
【工事場所】
全ての自治体で表記、大字までの表記が多い。特定の施設が施工対象となる場合は地番が記されていることもある。交通安全施設工や区画線工など、施工範囲が広域となる場合は一円などの表記で括られている。
【入札方式】
多くの自治体で、一般競争入札、指名競争入札、随意契約、プロポーザルの中から想定される方法を記している。伊勢崎市と藤岡市は、入札または随意契約の2項目で公表しており、一般競争入札と指名競争入札が判断しずらい。また、小規模な自治体では指名競争入札をメインに工事発注を行っているところも多いため、現在の発注見通しには指名競争入札のみが記載される。一般競争入札で発注する案件があれば、反映されるもよう。一方で、太田市と沼田市が一般競争入札を発注方法の原則としていることから、指名競争入札による工事の発注見通しが存在しない。随意契約を含むかは、自治体によって判断が分かれた。
【工種】
下仁田町と片品村が項目として工種を設けていない。工種や工事種別、工事の種類など項目名に統一性はないものの、このほかの自治体は公表している。等級を記している自治体はなかった。
【工期】
すべての自治体で公表。表記方法は月単位が多い。太田市のみが日単位。開始予定と完成予定を示す自治体もあった。
【発注予定時期】
多くの自治体が四半期で公表するなかで◇県県土整備部◇環境森林部◇藤岡市◇富岡市◇渋川市◇玉村町◇吉岡町◇長野原町◇板倉町◇南牧村◇高山村◇川場村−−が月単位で記載している。なかには月の上旬などさらに詳しい情報を示す自治体もある。下仁田町と片品村は発注予定時期としての項目はないが、工事開始時期が記されているため、発注時期を推測することはできる。
【工事概要】
自治体内でも統一した書式がなく、担当課によって内容が異なることがある。工事担当からの情報を集計しているためと思われる。年度早々の公表では、数量がまとまっておらず、一式で括ることが多い。
【担当部署】
担当部署は多くの自治体が工事担当課を記載、担当の係まで示しているのがみなかみ町と板倉町だった。前橋市と高崎市は工事ではなく、入札を実施する契約担当課を記している。