今年で創業67年を迎える五井建築研究所(金沢市)。今年2月、長年、同社をリードしてきた西川英治会長が死去した。昨年6月、4代目代表取締役社長に就任し、2年目を迎えようとしている喜多孝之氏に「新生五井」の理念やビジョン、コロナ禍における建築への新たな取り組み方などを聞いた。
「ごちゃまぜ理論」で地方創生や建築の新たな方向性を見い出した西川会長が亡くなった。これからどのような理念で建築活動を展開していくのか。
「故西川会長が3代目社長に就任したのは私と同じ50歳の時で、バブル崩壊後の低迷期。奇しくも私の就任時は新型コロナウイルス感染拡大の最中、同じような境遇でした。当社は代々、代表者が血縁関係でないため、創業者五井孝夫氏が残した理念を新村利夫氏、西川氏がそれぞれの捉え方で繋いできました。西川氏の「ごちゃまぜ理論」は地方創生における大きな功績で、北陸の建築設計界にも多大な足跡を残された。両氏とも各種団体の代表を務めるなど、社会的貢献を果たしてきており、そうした先人の功績に近づけるよう、謙虚に、精一杯、取り組んでいきたい」
4月、五井のグループ企業として、まちづくり部門を担う株式会社kyma(キーマ)を分社化した。どのような目的で展開していくのか。
「分社化については、社会福祉法人佛子園(白山市)の雄谷良成理事長の仕事に携わる中で故西川会長が構想し、数年前から準備を進めてきた。2018年に開設し、社員寮として活用してきた弊社東山寮をオフィスに転換した。これまで全国各地で関わっているまちづくり事業、空き家の調査・再生、イベントの企画提案、過疎地域のコミュニティ形成など、建築設計業の枠を越えた事業、地方創生のプロデュース業務などを建築設計事務所の領域を越えて、専門家集団として独立させた。自由に本格的に活動を展開していきたい」
コロナ禍の今、人の流れや動きが大きく変化し、建築を取り巻く環境も変化してきている。今後、どのような建築を標ぼうしていくのか。
「新生五井は創造性豊かな建築を創り出し、地域に根付く設計会社として、これまでの実績とクライアントとのご縁を大切に引き継がせて頂き、今後の建築は一から取り組んでいきたい。最も大切なことは共感を得られる建築づくり。それを心がけていきたい。クライアントの思いはもちろん、建物を使う人の身になって、あらゆることを想定し、考え、形にしていく」
「そして、プロジェクトを進める上で大事な五井のスタッフと工事に携わる人々の共感も無しに良い建築はできないと考えています。所員も一人ひとりが五井の社員であるという自負心を持って、常に自己研さんの心と探求心、倫理性を持ち、同時に自らの人生を描いていく大切な場であることを意識する必要がある。今一度、五井のアイデンティティーを所員皆で見つめ直す機会を作り、誇りが持て、やりがいのある、楽しく健康な会社にしていきたい」
新型コロナウイルス感染拡大に加え、大規模災害が頻発する今、社会構造全体が大きく変化している。建築設計はどう対応していくのか。
「コロナ禍で日常を見直す機会が増え、建築もそのあり方が多様化し、大きな転換期を迎えています。我々も先入観を持たず、常に頭をリセットしながら柔軟に対応したいと思います。特にIoTの世界は進歩が凄まじく、常に新しい情報に触れながら、建築とIoT技術の融合によって、人間の活動と健康をサポートする優しい建築づくりがこれから大切になると考えています」
「私には信頼できる所員や関係者の皆さんがいてくれます。皆さんの力を借りながら、良い建築への糸口を見つけ、繋いでいくこと。それを目標にがんばっていきたいと思います」
きた・たかゆき 1969年生まれ。内灘町出身。88年に五井建築設計研究所(現・五井建築研究所)に入社。2012年、同取締役、15年から専務取締役を経て、20年6月から代表取締役社長。日本建築家協会石川地域会副会長など。趣味は、釣り、映画鑑賞など。